胎児が母体から独立して人間となること。〈しゅっしょう〉ともいう。胎児が死んで母体から分離する死産と区別される。また出生が人類社会の構成主体となることを意味する以上,母が子を生む行為としての出産とも区別すべきであろう。
出生は受胎から死亡に至る人間の生命がたどる一つの経過点である。しかしそれは,まだ人間でない胎児が,人間として認められる画期であるという意味において重要な意義を与えられる。なぜならば,人間となった以上,その尊厳と基本的人権が保障されなければならないというのが,人権思想の帰結だからである。しかしこの考え方は,人類社会の始めからあったわけではなく,生まれた子がただちに社会の構成員として認められるためには長い人権のための闘いが必要であった。その重要な画期は,人間は自由平等な存在として生まれるという原則を確立した近代市民革命(アメリカ独立革命やフランス革命)の人権宣言に求められる。しかしこの近代的人権思想は,すべての人に適用されるという形式をもちつつも実質が伴わず,貧富,性別,人種等の差別を克服することができなかった。これに対し現代の人権思想は,すべての人間の実質的な人権の保障を目ざし,出生と,人間の尊厳と基本的人権の保障とを直接に結びつけようとしている。すなわち,生まれた子がただちに人間らしい取扱いを受けることを具体的に保障すること,したがってまた胎児と母体の保護を十分に保障することである。2度にわたる世界戦争の悲惨な結果は,国際連盟の児童の権利宣言(1924),国際連合の世界人権宣言(1948),国際人権規約(1966),子どもの権利条約(1989)などにおいて,この方向への発展を促した。とくに国際人権規約および子どもの権利条約は,すべての児童が出生後ただちに氏名を有し,国籍を取得し,さらに家族,社会,国家から未成年者としての地位に必要な保護措置を受ける権利を保障した。第2次大戦後の日本も,日本国憲法(1946),改正民法,労働基準法,児童福祉法(いずれも1947),児童憲章(1951)に始まり,国際人権規約の批准(1979),子どもの権利条約の批准(1994)に至るまで同じ方向への努力を続けている。
胎児と人間とを分ける画期としての出生は,法の分野によってその時期を異にする。一般的には胎児が生きて母体から完全に離れたときであり(全部露出説),そのときをもって相続順位など法律上の関係が決定される。これに対し刑法上は,胎児の保護のため,胎児の体の一部が母体から露出したときとされ(一部露出説),そのとき以前は堕胎罪が,そのとき以後は殺人罪が適用される。なお母体保護法によって認められた人工妊娠中絶には堕胎罪の適用はない。
出生は届出義務者(父または母,同居者,立会医師・助産婦,その他の者の順)から,原則として出生地の市区町村長(外国で出生した場合は在外公館)に対し,医師・助産婦などの発行した出生証明書をつけて,出生の日を含めて14日以内(外国では3ヵ月以内)に届け出なければならない(戸籍法40条,49条,51条,52条)。子の名は常用平易な文字でつけなければならない(50条)。出生届が受理されると,嫡出子は父母の氏を取得してその戸籍に,嫡出でない子は母の氏を取得してその戸籍に入籍する(18条)。棄児については市区町村長が氏名をつけ本籍を定める(57条)。正当な理由がないにもかかわらず期間内に届出を怠った届出義務者は,3万円以下の過料に処せられる(120条)。
日本国憲法による人間の尊厳と基本的人権の保障は,出生とともに始まる。私法上の権利主体となる能力(権利能力)も出生とともに与えられる(民法1条の3。なお損害賠償請求権と相続権は,生きて生まれることを条件として胎児にも認められている)。さらに社会諸立法が,生まれた子にただちに人間らしい処遇を保障する建前をとっている。しかしその現実は必ずしも満足すべきものではない。また以上の保障は日本国民としての出生を前提としているという制約をもつ。もちろん日本法は,一応内外人平等主義の原則をとっているが(民法2条),多くの法律において在日外国人の権利は大きく制約されている。これらの問題の解決は,日本だけではなく,世界の多くの国々がかかえている課題でもある。したがって,すべての出生が人間の尊厳にふさわしいあり方を示しているとはまだいえない。
執筆者:利谷 信義
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生まれること。人は出生によって権利能力(法律上の人格)を取得する(民法3条1項)。民法上は、胎児が生きて生まれたか死産かによって相続順位が変わることがあるので、なにをもって出生とするかが問題となる。一般には、胎児が生きて母体から全部露出することをもって出生とされる(全部露出説)。刑法上は、堕胎罪と殺人罪の区別について問題となるが、この場合は、胎児の一部でも露出すれば出生であるとされ(一部露出説)、したがってその後に殺せば殺人罪が適用されることになる(刑法199条)。出生があったときは、出生届をしなければならない(戸籍法49条以下)。人の出生や出生の時期の証明は、戸籍簿の記載によってされるのが普通であるが、戸籍簿の記載がないか、または誤っている場合には、医師・助産師などによって証明することも可能である。なお国籍法では、定められた条件を満たしていれば出生による国籍の取得が認められている(国籍法2条)。
[高橋康之・野澤正充]
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…胎児が死んで母体から分離する死産と区別される。また出生が人類社会の構成主体となることを意味する以上,母が子を生む行為としての出産とも区別すべきであろう。
[出生の意義]
出生は受胎から死亡に至る人間の生命がたどる一つの経過点である。…
※「出生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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