改訂新版 世界大百科事典 「野談」の意味・わかりやすい解説
野談 (やだん)
朝鮮の物語本。広く民間に伝わる野史,巷談,街説,軍談などが収録されており,人情の機微や世態・風俗などが描かれている。また,庶民の鋭い風刺と機知に富む作品も多く,朝鮮民族のこころを知るうえでも貴重な資料といえよう。史話が正史をもとにして作られた物語であるのに対し,野談は一個人の手になる野史的なものが素材となった。したがって,より自由なフィクションの世界が展開されており,生き生きとした庶民の姿がそこには投影されている。野談が登場した時期については,いまだ定説がない。野談が盛んに行われるのは李朝時代であるが,さらに時代をさかのぼりうる稗官(はいかん)小説(街説,巷談を主題としたもの)と同義語として使われる場合もあるからである。野談集の代表的なものとしては,柳夢寅(1559-1623)の《於于野談》(5巻1冊)や,19世紀のものと推定される《青丘野談》(6巻9冊)などがある。これらは初めは漢文で書かれたものだったが,のちにハングルに訳され広く伝わった。なお,植民地時代の雑誌《野談》(1934-39,35-45の2種あり)を基礎に,戦後白大鎮らによって《韓国野談全集》(全10巻)などが出版されている。
執筆者:尹 学 準
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報