閣内受容体異常症の遺伝子変異

内科学 第10版 の解説

閣内受容体異常症の遺伝子変異(ホルモン受容体異常症)

(2)核内受容体異常症の遺伝子変異
a.グルココルチコイド受容体
 グルココルチコイド受容体のステロイド結合領域の変異により受容体親和性の低下や受容体数の減少がみられる.ヘテロ接合体変異,ホモ接合体変異ともに報告がある.高コルチゾール血症にもかかわらずCushing症候群の症状を呈さないのが特徴である.コルチゾールの下垂体・視床下部への抑制が不十分でACTH過剰分泌が起こる.そのため過剰に分泌されたコルチゾールにより腎臓のミネラルコルチコイド受容体を介して塩類貯留が引き起こされ,低レニン性高血圧となる.さらに副腎アンドロゲン分泌も亢進するため,女性では男性化兆候が,男児では性早熟が認められる.
b.ミネラルコルチコイド受容体
 常染色体優性遺伝形式および孤発例の偽性アルドステロン症1型で不活性型変異が報告されている.通常は生後7カ月以前に尿中への大量のナトリウム喪失による脱水で発症し,低ナトリウム血症,高カリウム血症,高レニン血症,高アルドステロン血症を呈する.活性型変異は1家系のみ報告されている.若年発症の遺伝性高血圧の家系にてホルモン結合領域(hormone binding domain:HBD)にヘテロ接合体変異(S801L)が同定され,変異受容体は基礎活性が上昇しており,プロゲステロンによる活性化も確認されており,妊娠中に高血圧が悪化する.
c.エストロゲン受容体
 常染色体劣性遺伝形式をとる1例のみが報告されている.本来595個のアミノ酸であるERαが点突然変異により156個のアミノ酸で構成され,DNA結合領域を有さない短縮型受容体になったことによる.臨床的特徴としては,高身長,骨端線閉鎖不全,エストラジオールの高値が報告されている.
d.アンドロゲン受容体
 アンドロゲン受容体異常症は,アンドロゲン受容体遺伝子の異常により46,XY個体において男性化障害をきたす疾患である.200種類以上の変異が報告されている.アンドロゲン作用不全が存在する時期やその程度により,男性化の障害の程度はさまざまである.
e.甲状腺ホルモン受容体
 甲状腺ホルモン不応症では組織においてT3の反応性が低下している.下垂体においても反応性の低下がみられるため,血中T3が高値にもかかわらず,TSHは抑制を受けず甲状腺腫大を伴った不適切TSH分泌症候群の検査所見となる.大部分の甲状腺ホルモン不応症はTRβのヘテロ接合体変異で発症し,常染色体優性遺伝形式を呈する.臨床症状は各組織の不応性の程度と血中甲状腺ホルモン量のバランスで決定されるため,機能低下症状から機能亢進症状までさまざまである.1967年にRefetoffらがはじめて報告した家系では両TRβ遺伝子の欠失によるホモ接合体で常染色体劣性遺伝の様式を呈した.
f.ビタミンD受容体
 ビタミンD受容体遺伝子の不活性型変異による常染色体劣性遺伝形式をとるビタミンD依存性くる病Ⅱ型が知られている.低カルシウム血症,二次性副甲状腺機能亢進症を呈し,腎臓では1αヒドロキシラーゼ活性が亢進するが,1,25-(OH2-DのビタミンD受容体への結合が障害されている.生後2~6カ月頃に禿頭となるのが特徴といわれているが症状の程度にはかなり幅がある.
g.ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxi­some proliferator-activated rece­ptor:PPAR)
 PPARにはα,γ,δの3種が知られているが,このうちPPARγは脂肪の分化を調節する核内受容体であることから,脂質代謝やインスリン感受性に対するPPARγ変異の影響が検討されている.コドン12のプロリンがアラニンに変異しているPPARγ(P12A)はDNA結合能や転写活性能が低下しており,脂肪細胞の分化が抑制されるためインスリン抵抗性が軽度で糖尿病に罹患しにくい.その他P115Qは高度肥満,V290M,P467Lは高度のインスリン抵抗性との関連が報告されている.[杉山 徹・小川佳宏]
■文献
DeGroot LJ, Jameson JL, et al: Endocrinology, 6th ed, W.B. Saunders, 2010.
Larsen PR, Kronenberg HM, et al: Williams Textbook of Endocrinology, 10th ed, Wilson Churchill Livingstone, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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