日本大百科全書(ニッポニカ) 「防湿設計」の意味・わかりやすい解説
防湿設計
ぼうしつせっけい
vapor proofing design
建物の壁体および室内空気中の湿気をつねにできるだけ低く保つように、建物を室内気候的な観点から計画し、設計すること。湿気とは空気中または材料中に気体もしくは液体の形で存在する水分のことで、材料中に存在する水分重量を含湿量という。水蒸気を含んだ通常の空気中に長時間置かれた材料含湿量は、その空気の湿度に平衡したある特定値になる。低湿空気と平衡していた木材のようなある多孔質性材料を高湿空気中に放置すれば、材料は空気中の水蒸気を吸湿して重くなるが、低湿空気中に戻せば放湿して軽くなる。このような材料の性質を吸放湿という。このように材料の含湿量は、その材料周囲の空気の湿度と密接な関係をもっている。したがって、壁体を湿らせないためには、それに接する空気の湿度も低くなければならない。
多孔質性壁体の両側の空気に水蒸気圧差があれば、高湿側壁面では吸湿し、低湿側では放湿し、壁内を水蒸気が流れる。この現象を透湿または湿気貫流という。冬に窓ガラス表面に結露するのと同様に、透湿によって水蒸気圧が高くなった外壁内に温度の低い箇所があれば、そこに結露が発生する。これを内部結露という。壁の結露は壁面にカビを発生させ、壁面を汚したり腐らせたりする原因となるので、極力防止しなければならない。
外壁の構造体の内側に断熱層を施工した内側断熱外壁では、その断熱性を高めるにつれて断熱層の外気側の壁体内に結露する危険が増す。これを防止するには、室内で必要以上に水蒸気を発生させないか、断熱層の室内側に防湿層を設けて室内からの水蒸気の流入を防止するか、または構造体の外気側に断熱層を設けた、いわゆる外側断熱工法を採用して構造体をできるだけ高温に保つように計画すればよい。
屋根の断熱性は屋根下面の結露防止と最上階の室の保温の点から重要な問題である。鉄筋コンクリート造の屋根は、ほぼ完全な防湿面と考えられ、その下に天井がある場合、天井に完全な防湿性を期待することは施工上困難であるから、天井の断熱性を増すほど屋根裏は高湿となって屋根下面の結露の危険性が高くなる。このような場合は天井と屋根の断熱性をともに高め、天井下面に結露のおそれのない程度に、屋根裏と外気との間に適度な換気を図ることが必要である。むしろ屋根を十分断熱したうえで天井を設けない構造とすれば、屋根裏気温も屋根下面温も上昇し、結露のおそれは少なくなる。
[水畑雅行]