日本大百科全書(ニッポニカ) 「湿度」の意味・わかりやすい解説
湿度
しつど
humidity
空気中の水蒸気の量や、空気の湿りぐあいの程度などを表す量。大気中の湿度は、場所や高さや時刻などによって異なり、人間の生活に大きく影響するほか、気象学上重要な要素である。
[大田正次]
湿度の表し方
単位体積の空気中に含まれている水蒸気の量を、たとえば1立方メートル中15グラムなどと表すことがある。これを絶対湿度という。空気中に含まれる水蒸気の量には限界があって、通常はその限度以上に水蒸気を含むことはできない。この限度の水蒸気の量を飽和水蒸気量という。飽和水蒸気量はそのときの空気の温度によって変わり、たとえば気温0℃では1立方メートル中に4.8グラム、気温15℃では12.8グラムである。過飽和現象といって、限度以上の水蒸気を含むこともあるが、大気中では限度以上の水蒸気を含むことは、たとえ一時的におこっても、ただちに限度内に下がり長続きしない。
ある場所のある時刻における大気中の水蒸気量を、そのときの気温で含みうる最大の水蒸気量、すなわち飽和水蒸気量で割り、それに100を掛けてパーセント(%)で表したものを相対湿度といい、また単に湿度ということもある。相対湿度10%は著しく乾燥した状態であり、相対湿度90%は逆に著しく湿った状態である。湿度は空気の湿りぐあいを知る目安となっている。
単位体積の空気中に含まれている水蒸気の量と、残りの空気の量との比を混合比といい、普通、水蒸気量をグラム、空気の量をキログラムで表して比をとる。これは気象学で気団分析などに用いられる。
[大田正次]
湿度の測り方
湿度の測定は気象観測のなかではむずかしいものの一つである。古くから気象観測で常用され、いまでも世界各国で広く用いられているのは乾湿計である。乾湿計は、普通の温度計を2本並べ、1本では気温を測り、他の1本は、ガーゼを2枚くらいあわせて巻き付け、このガーゼに水をつけて湿球とし、水分の蒸発の速さの目安とする。普通ガーゼに木綿糸を5、6本縛り付け、糸の先を小さなコップの水ために浸して、つねにすこしずつ水を補給する仕組みとなっているので、湿球は乾くことなくいつでも湿っている。気温が氷点以下に大きく下がらないような場所では、この方法は案外正確に湿度の測定ができ、かつ操作も簡単で費用も安い。この乾湿計を百葉箱(ひゃくようばこ)に入れておくか、または陽(ひ)の当たらない風通しのよい位置に吊(つ)るす。一方の温度計(乾球という)の示度と、湿球の示度を読めば、それから表を用いて相対湿度を求めることができる。なお気温が0℃以下になると、湿球は凍る場合があるので、まず凍っているかいないかを確かめてから表を用いる。
湿度計としては通風乾湿計、毛髪湿度計などのほか、測定方法の違う各種のものがある。
[大田正次]
湿度の分布
相対湿度は10%以下になることもあるし、100%に近くなることもあり、場所による変化は著しい。きわめて湿度の小さい砂漠地方を除くと、世界各地の年平均湿度は65~85%である。日本の年平均湿度は70~80%である。
絶対湿度は赤道地帯で空気1立方メートル中18グラム、極地方で6グラム程度である。絶対湿度は上空ほど小さくなり、高さ5キロメートルでは地上の値の約10分の1くらいになる。
[大田正次]
湿度の変化
ある場所での相対湿度の日変化は、その場所の気温の変化によって左右され、一般的には気温が高いときには湿度は小さく、気温が低いと湿度が高い。東京の例でみると、相対湿度は午後2時ごろに約60%でもっとも小さく、朝の6時ごろ約85%でもっとも大きい。一方、絶対湿度の日変化は直接に気温によって左右されることはないが、気温が高いと最寄りの水面(海面など)からの蒸発が盛んとなり、その結果水蒸気が補給されるので、気温が高いころに絶対湿度は大きくなり、気温が低いころに小さくなる。東京の例では、午後6時ごろに大きく(約10.6グラム毎立方メートル)、午前5時ごろ小さく(約9.8グラム毎立方メートル)なる。
[大田正次]
湿度の記録
日本のこれまでの気象観測の結果を調べてみると、相対湿度のもっとも小さい値は富士山頂と滋賀県伊吹(いぶき)山頂で0%、平地では鹿児島市の3%である。相対湿度が10%以下のきわめて乾いた状態は日本各地でおこっているが、季節でみると3~5月に多い。
[大田正次]
実効湿度
木材などの乾燥の度合いを表す示数の一種である。木材の乾燥度はそのときの空気の乾燥度だけではなく、数日前からの空気の乾燥度の影響を受ける。そこで次のように計算すれば、木材の乾燥の度合いに近い示数が得られることが実験的にわかった。まず、当日、前日、前々日、……などの1日中の平均の相対湿度を調べ、当日の値には1.0、前日の値には0.7を掛け、前々日には0.7の2乗すなわち0.49を掛け、その前の日の値には0.7の3乗すなわち0.34を掛けるなどして、それらを全部加え合わせる。その結果の値にさらに0.3を掛ける。このように当日のみならず前日、前々日などの湿度の影響を加味して求めた値を実効湿度という。実効湿度が60%以下に下がると、木材の乾燥が甚だしく、火災がおこりやすいといわれている。このような乾燥状態は、冬の季節風のときの太平洋側や、春先にフェーン現象のおこる日本海側などにとくに多く発生する。
[大田正次]