日本大百科全書(ニッポニカ) 「集団生物学」の意味・わかりやすい解説
集団生物学
しゅうだんせいぶつがく
population biology
個体以上のレベルに関する生命現象を研究する諸学問を総合的にとらえた学問。生物の人口学である個体群生態学population ecologyと野外生物集団の遺伝的構成を調べる集団遺伝学population geneticsの二つを中核とするが、それよりも広く、多種類の生物が相互作用する生態系や生物群集に関する生態学、動物の行動に関する社会生物学・エソロジー、生物の多様性を扱う系統分類学、タンパク質やDNA(デオキシリボ核酸)に進化の跡を読み取る分子進化学、そして人口学、伝染病学などを含む。自然界にみられる生命現象を、比較的単純な性質をもつ要素が多数相互作用する動的な過程の結果、形成された秩序として理解しようとすることに特徴がある。進化のつくりだしたパターンの多くは集団生物学の対象である。また集団生物学の法則性は一般に量的な性格をもつため、統計学と深いかかわりをもって発展してきた。その基礎理論は、非線形力学系、最適制御理論、ゲーム理論、確率過程などに基づいて定式化されており、理論生物学の重要な一分野をなしている。最近は、転移性遺伝要素の動態など分子生物学や、文化要素の伝播(でんぱ)・進化といった文化人類学の研究対象にまで、集団生物学的アプローチが有効性を発揮している。
[巌佐 庸]