翻訳|diffusion
文化人類学の用語。二つの文化が直接あるいは間接に接触した場合,一方の文化から他方の文化へ,文化要素の移行・受容が行われる現象をさす。この意味において伝播は人類に普遍的であり,また人類の歴史のすべての段階に存在し,これによって,最初局地的に知られているだけだった創造的努力の成果が広まり,また再発明の手間を省くことによって文化の発展を促進してきた。既存のある文化体系に新しい文化要素がつけ加わるのには,その文化体系内部での発明と,他文化からの伝播とがあるが,ともに同様な過程をたどる。つまり(1)新要素の紹介,(2)受容,(3)統合,(4)そしてしばしば類似した機能の旧要素の消滅である。文化のさまざまな分野,たとえば技術,生業,交易,社会組織,宗教,芸術の諸要素は,原則的にはすべて伝播可能であるが,分野によって難易は同じではない。一般的には技術や物質文化の諸要素は,親族組織や抽象的な哲学体系などよりも,伝播しやすいと言える。しかし,伝播においては必ず受容する側で選択が行われる。だから,伝播しやすいと言われる物質文化の要素にしても,生態学的理由,経済的考慮(経費がかかりすぎるなど),既存の価値体系に合うか否か,などの要因によって受容や拒否が決められる。一方の文化から他方の文化への伝播が進行し,後者の文化体系に変化が生じてくる過程は,文化変容(アカルチュレーションacculturation)と呼ばれる。
クローバーが論じたように,伝播のなかに,刺激伝播あるいは着想伝播と呼ばれるものがある。これは,内容自体は伝播せず,形式あるいは着想だけが伝播し,内容は行った先で再発明されるものである。たとえばイネ科の植物を栽培化するという着想がコムギ栽培のところから伝播していって,他の野生植物,たとえばアワに適用され,アワが栽培化されるというような現象である。この刺激伝播ないし着想伝播は,人類文化史上大きな役割を果たしたと考えられるが,それを証明するのは容易でない。
人類の,ことにその初期の文化史を主として伝播という観点から説明する立場を伝播主義diffusionismという。民族学の歴史においては,19世紀後半における進化主義への批判として,20世紀初頭には伝播主義が盛んとなった。これにはさまざまな学派があり,その極端なものとしては,古代エジプトに世界の文明の唯一の源泉があり,ここから太陽巨石文化が世界中に広がっていったとするイギリスのスミスGrafton Elliot SmithやペリーWilliam James Perryの説がある(ヘリオセントリズムHeliocentrism)。ドイツやオーストリアのいわゆる文化圏説もしばしば伝播主義と呼ばれる。イギリスの伝播主義ほど極端でないが,少数の文化圏(文化複合)の伝播,接触を重要視した点に特徴がある。文化史解釈の原理としての伝播主義は支持できなくなっているが,伝播という現象が存在すること,人類の文化史において伝播が進化や生態学的適応と並んで重要な役割を果たしていることは認められる。
執筆者:大林 太良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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