内科学 第10版 「非感染性ミオパチー」の解説
非感染性ミオパチー(炎症性ミオパチー)
a.薬物/化学物質
薬物ではさまざまな機序でミオパチーを起こす.ミトコンドリアミオパチー(AZTその他の核酸アナログ),ミオシン欠損性(副腎皮質ホルモン),横紋筋融解性(エタノール,ヘロイン,コカイン,トルエン,脂質異常症治療薬(スタチン系,フィブラート系)),低カリウム血症性,ライソゾーム性(コルヒチン,クロロキン)など,多種の薬物で多様なミオパチーを起こすが,特発性炎症性筋疾患と同様の炎症性ミオパチーを誘発するものもある.
1)d-ペニシラミン:
関節リウマチ(最近では使用頻度が低くなっている)および重金属中毒の治療薬であるが,特発性炎症性筋疾患と同様に近位筋優位の筋炎を起こすことがある.皮膚炎,嚥下障害,心筋障害も合併することがある.本薬は重症筋無力症誘発の報告もある.
2)インターフェロン-α:
最近,自己免疫疾患への1型インターフェロンの関与が示唆されているが,治療としてC型肝炎や悪性腫瘍に用いられるインターフェロンαで起こった血管炎や筋炎の報告がある.
3)スタチン系:
脂肪異常症治療薬である3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A(HMG-CoA)還元酵素阻害薬(スタチン)の服薬の副作用でミオパチーはよく知られている.筋痛,血清CK上昇,筋力低下が起こり,多くの症例は服薬の中止で改善するが,生命を脅かす横紋筋融解症を起こすこともある.近年,スタチンで誘発される免疫介在性の壊死性ミオパチーの存在が報告されるようになった.組織学的には炎症細胞浸潤に乏しいが,壊死性筋線維がほかの壊死性筋線維の貪食をしている像があり,スタチンの服用中止でもミオパチーが遷延し,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬などの治療を必要とするという.
4)その他の薬物
: フェニトイン,ミノサイクリン,ペニシリン,スルフォナミド,レボドパ,シメチジン,カルビマゾール,プロピルチオウラシルなどが筋炎との関連が疑われている.HBVワクチンの予防接種での報告もある.
b.好酸球増加筋痛症候群
米国で1989年に好酸球増加と筋痛をきたした症例が最初に,その後多くの患者が報告された.調査の結果,サプリメントとして摂取しているl-トリプトファンが原因であることが判明し,米国では市場での販売が禁止された.
c.移植片対宿主病(GVHD)による筋炎
ドナーの骨髄または幹細胞移植の後7カ月~5年後に慢性GVHDに伴って起こってくる(0.6%).ドナーの免疫担当細胞がアロ(レシピエント)の筋に反応して起こる.筋位筋で下肢>上肢に対称性に症状が出現,筋原性酵素の上昇,筋組織で筋束周囲の組織球,樹状細胞の炎症が認められ,CD8+T細胞が筋周囲に少数認められる.ステロイドとシクロスポリン,アザチオプリン,タクロリムスで治療する.
d.シリコン誘発性筋炎
豊胸術でのシリコンインプラントやシリコンの注射での多発筋炎,強皮症誘発が報告されている.[村川洋子]
■文献
Dimachkie MM, Barohn RJ: Inclusion body myositis. Semin Neurol, 32
: 237-245, 2012.Nagaraju K, Lundberg IE: Inflammatory diseases of muscle and other myopathies. In: Kelley’s Textbook of Rheumatology. 8th ed, pp1353-1380, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報