日本大百科全書(ニッポニカ) 「飛騨匠物語」の意味・わかりやすい解説
飛騨匠物語
ひだのたくみものがたり
石川雅望(まさもち)作の読本(よみほん)。葛飾北斎(かつしかほくさい)画。六巻六冊。1808年(文化5)刊。飛騨の名工猪名部(いなべ)の墨縄(すみなわ)が弟子の檜前松光(ひのくままつみつ)とともに蓬莱山(ほうらいさん)の神仙から工技を授けられ、武蔵(むさし)に下って美少年竹芝山人を助けて女一の宮との間を取り結び、やがて山人と一の宮はもと仏界を追われた人であることがわかって、ついに3人とも登仙する。全体の構成を李笠翁(りりつおう)の『蜃中楼伝奇(しんちゅうろうでんき)』によって謫仙(たくせん)の物語としながら、表面には『今昔物語』の百済河成(くだらのかわなり)の説話や、『更級(さらしな)日記』の竹芝寺伝説を明示し、さらに有名な左甚五郎(ひだりじんごろう)の俗伝を連想させるなど、巧みな翻案と組合せを行っている。作者の国学や中国小説の造詣(ぞうけい)がうかがえるが、当時曲亭馬琴(ばきん)はこれを「世に行はるるにあらず、畢竟(ひっきょう)楽屋の評判のみ」と評した。
[中野三敏]
『『日本名著全集13 読本集』(1927・同書刊行会)』