馳・走(読み)はせる

精選版 日本国語大辞典 「馳・走」の意味・読み・例文・類語

は・せる【馳・走】

[1] 〘他サ下一〙 は・す 〘他サ下二〙
① 走らせる。早く進ませる。馬などをかけさせる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「駕を驟(ハセ)て前み行き」
徒然草(1331頃)一八六「その馬をはすべからず」
② 心の働きなどを、ある方向に向けて進めさせる。また、物事の及ぶ範囲などをひろげる。→心を馳す思いを馳せる
※不安(1900)〈幸田露伴〉上「早くも未来の大事件に的無しの想像を馳(ハ)せて、娯しげに打笑んだ」
[2] 〘自サ下一〙 は・す 〘自サ下二〙
① 走る。かけて行く。〔大般若経字抄(1032)〕
※大唐西域記長寛元年点(1163)序「曷ぞ能く雪山を指して長く驚(ハセ)
太平記(14C後)一五「頓て主の許へこそ馳(ハセ)来んずらん」
② (走・䑺) (「䑺」の文字は近世の船方で慣用され、帆走意味した) 帆をあげて走る。
※船法儀(室町末か)「沖䑺る時は風下の船に乗懸け」
③ 心の働きなどが、ある方向に向かって進む。また、物事の及ぶ範囲などがひろがる。
※筆まかせ(1884‐92)〈正岡子規〉一「工は医より見れば実用少なけれども、文に比すれば空論に馳せずといふことを示すのであります」
[語誌](一)は、本来自動詞「はしる」に対応するもので、「はしる」が古代には水、鮎、雹などの動きについて広く用いられていたのと同様に、馬、弓、舟、心などについて広く使われた。しかし、(二)のように自動詞的にも用いられたために、「はしる」との関係が曖昧になり、「はしる」の他動詞形としては「はしらす」「はしらかす」が一般的となった。ただし、東北方言には「はせる」を「はしる」の意味で使うなどの用法が残っている。

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