日本大百科全書(ニッポニカ) 「鱗食魚」の意味・わかりやすい解説
鱗食魚
りんしょくぎょ
lepidophagous fish
scale eater fish
肉食魚で、とくに泳いでいる魚の鱗(うろこ)をはぎ取って食べる魚類をいう。ある種のティラピア、アジ類、海産ナマズ、クロスジギンポなどは、ほかの魚に同行して泳ぎ、必要に応じてその魚の鱗や皮膚をはがして食べる。鱗食魚はほかの肉食魚と異なり、鱗以外の硬骨が胃内に認められないことから、その特異な食性がうかがえる。ただし、鱗食性は幼魚期にみられるだけで、成魚になると完全な肉食性となる。
ある種のアジOligoplites refulgensの全長5.5センチメートル以下の幼魚では、歯骨上の歯が2列で、とくに外列歯がへら形をして密接し、外方に向かって鉤(かぎ)状となる。体を「S」状または「Z」状に曲げて相手をつつき、その瞬間に鱗の下に外列歯を入れて鱗や皮膚をはぎ取る。6センチメートルぐらいから外列歯が脱落しだし、15センチメートル以上に成長した魚では鱗食性が失われる。
アフリカのタンガニーカ湖にいるカワスズメ科(シクリッド科)の鱗食魚は、被食魚の後方から近づいて、体の側面の鱗をはぎ取って食べる。そのために口が左右どちらかに曲がっている。左に曲がった口は体の右の鱗をはぎ取るのに適している。右のものはその逆である。その数は半々ではなくて、どちらかに偏っている。左口が多くなれば対象魚は体の右側を警戒するようになるために、右口のほうが有利になり、その数を増す。次には逆のことがおこり、この現象が繰り返される。左利き、右利きの発達の進化の例として興味がもたれている。
[落合 明・尼岡邦夫]