日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳴き竜」の意味・わかりやすい解説
鳴き竜
なきりゅう
天井と床などのように互いに平行に向き合った堅い面がある場所で拍手・足音などの衝撃性短音を発したとき、往復反射のためピチピチとかブルブルなど特殊な音色をもって聞こえることがある。この現象をフラッターエコーflutter echoあるいは鳴き竜とよぶ。
日光の東照宮薬師堂(本地堂)の内陣天井には竜(狩野(かのう)永真安信筆)が描かれており、この竜の頭の下で、天井にすみついたハトを追い出そうとして、手をたたいたとき、ブルブルと奇声を発するという現象が発見されたという(1905ころ)。以後、一般にも開放され、全国的に「鳴き竜」として広まったためこの名がある。なお薬師堂は1961年(昭和36)焼失したが、64年再建に着手、天井画(堅山南風(かたやまなんぷう)筆)とともに鳴き竜現象も復原された。鳴き竜は薬師堂だけの特異現象ではなく、1934年(昭和9)東京科学博物館(現国立科学博物館)による懸賞募集により、ほかに30余例がみつかった。桃山時代末期(1605)に建立された京都相国(しょうこく)寺法堂(はっとう)の鳴き竜はもっとも古いものとの調査もある。この法堂の天井にも竜(狩野光信(みつのぶ)筆)が描かれている。
天井面が完全に水平だと垂れ下がって見えるので、中央部をいくらか持ち上げる建築技法を「むくり」とよぶが、このような天井の場合、鳴き竜現象はいっそう顕著となる。前出の2例もそのような構造となっている。
鳴き竜の音色は1秒当りの反射回数により、したがって天井高により決まり、音源の種類(拍手か拍子木か)にはよらない。
[古江嘉弘]