改訂新版 世界大百科事典 「鴨場猟」の意味・わかりやすい解説
鴨場猟 (かもばりょう)
現在,宮内庁で保存されている唯一の伝承猟。鴨場は,江戸中期幕府や各大名家などが一種の社交場として設置した。しかし,この猟法は広大な土地を要し,周辺を銃猟禁止区域に指定する必要があるため,明治になり開発が進むと存続が困難になり,しだいに姿を消していった。この間,宮内省によって保存がはかられ,皇室の接待用として現在に至っている。宮内庁が管理運営する鴨場は,埼玉県越谷市と千葉県市川市の2ヵ所。狩猟期間中には各国外交官や閣僚,国会議員などが招待される。かつては捕獲したカモを料理して招待客に供したが,現在では捕獲したカモには足環標識をつけて放鳥し,調理には養殖のアイガモが用いられる。民間の鴨場は戦後茨城県下に1ヵ所開設されたが,現在では開発が進んで廃止されている。この種の猟法は日本独特のもので,概略は以下のとおりである。周囲に垣を巡らした池にナキ(カモとアヒルを交配したおとり)を入れ,秋に渡ってくるカモを池に餌づけておく。池からは何本かの引込堀が掘られ,ナキに給餌するときこの引込堀に誘導して餌を与える。野生のカモもしだいにナキにつられ,この引込堀に入り与えられる餌をついばむようになる。引込堀の両側は垣,または土手で,人影は見えないようになっている。猟の当日,猟者はさで網を手にして引込堀の周囲で待機する。ナキといっしょにカモが引込堀に入ってきたのを見澄まし,池との間の引起し網を引いて池に戻れなくする。驚いたカモがいっせいに飛び立つところを猟者がさで網を振って捕らえる。かつては捕らえそこねたカモは,待機していた鷹匠がタカを放って捕らえたが,現在では行われていない。
執筆者:岩堂 憲人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報