タカ(読み)たか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タカ」の意味・わかりやすい解説

タカ
たか / 鷹
hawk

鳥綱タカ目タカ科に属する鳥のうち、中形から小形のものの総称。これに対し、大形で強力な種はワシとよばれる。しかし、タカとワシの区別はかなり便宜的なもので、分類学的な分け方ではない。一方、タカのなかにハヤブサ科の鳥を含める場合もある。昼行性の猛禽(もうきん)で、嘴(くちばし)は先が鉤形(かぎがた)に曲がり、つめは鋭い。雌が雄より大きい種が多く、とくに雌雄の色彩が違う種ではそれが著しい

 タカ科の鳥は世界に分布し、約210種がある。日本には22種がおり、ワシと名のつく7種を除いた15種がタカである。ミサゴ属1種、ハチクマ属1種、トビ属1種、ハイタカ属4種、ノスリ属3種、サシバ属1種、クマタカ属1種、チュウヒ属3種が含まれる。いずれも動物質のものを食べるが、多くの種では生きた動物をとらえる。ノスリ類はネズミ、ハイタカ類は鳥、ハチクマはハチの幼虫や蛹(さなぎ)、ミサゴは魚と、狩猟の対象とするおもな動物が決まっている種もある。サシバやチュウヒはカエル、ヘビ、ネズミを、クマタカは大形の鳥や哺乳類(ほにゅうるい)を捕食する。トビはネズミの死体や魚のあらを食べることが多い。獲物は足で押さえ、嘴でちぎって食べ、骨や羽毛などの不消化物はあとで塊にして吐き出す。これをペリットという。

 獲物が違うのに伴って、狩猟の方法もそれぞれ異なる。空中で鳥を追いかけて後ろからつかむもの、広い範囲を飛び回って地上の獲物を探し、みつけると急降下してとらえるもの、枝に止まって待ち伏せし、地上の獲物に襲いかかるもの、草原や葦原(あしはら)の上空を低く飛び、獲物が逃げ込む前につかみ取るものなどがあり、いくつかの方法を使う種もある。ノスリ、ミサゴ、ハイイロチュウヒなどは下の獲物をねらうとき、複雑に翼と尾を動かしながら空中の1か所で停空飛翔(ひしょう)をする。トビ、ノスリ、クマタカなどは広い翼をもち、上昇気流を利用して羽ばたかないでゆっくり飛ぶことが多いが、ハイタカ類は速い羽ばたきと短い滑翔を交互に行い、速く直線的に飛ぶ。しかし条件のよいときには、どの種も上空で輪を描いて飛ぶ。

 多くの種は、高い木の上に枯れ枝を使って大形の巣をつくり、1~5個の卵を産むが、チュウヒ類のように草原の地上に営巣したり、ノスリやミサゴのように岩上や岩棚に巣をつくったりするものもある。雛(ひな)は綿羽に覆われ、数十日間親の哺育(ほいく)を受けて巣だつ。季節の変化による長い移動はしない種が多いが、サシバとハチクマは夏鳥で、秋になると大群で南へ渡る。昔は鷹狩(たかがり)にオオタカが用いられ、地方によってはクマタカも使われた。また、家紋としてタカの姿や羽を用いたものが多い。

[高野伸二]

民俗

『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』に、摂津国(兵庫県・大阪府)で飼われていたタカが、人々を脅かしていた大蛇を退治した話が載っているが、このほかに、遠征の帰途家臣の裏切りで孤島に残された英雄百合若大臣(ゆりわかだいじん)が、愛鷹(あいよう)「緑丸」の助けにより故国への復帰を遂げたという話も有名である。他面、タカに愛児をさらわれたという話もあり、飛騨(ひだ)(岐阜県)に伝わる手毱唄(てまりうた)に、「一人もらった男の子、鷹にとられて今日七日――」というのがあり、東京の子守唄にも「泣くとお鷹にとられます、黙ってねんねんねんねんよう」というのがあった。また、タカの鋭い目玉を眼病の霊薬とした所もあった。羽は矢羽として珍重されたせいか、タカが自らの抜け羽を深山の岩の間にしまっておく羽蔵をみつけると、一生楽に暮らせるという話もあった。

[最上孝敬]

 古代エジプトでは、タカはその飛翔力(ひしょうりょく)から、天空を支配する神格と結び付けている。エジプト人は天空はタカの頭であると考え、右目が太陽、左目が月であるとした。太陽の神ホルスの名は、天空を飛ぶタカに由来し、ホルスは五色の翼をもつタカ、あるいはタカの頭部をもつ神の姿で表現された。オーストラリアの先住民の火の起源神話では、タカが特徴的に登場している。タカが最初に火をおこしたとか、他の動物のもっている火を人間のなかに広めたとかいう。ボルネオ島の先住民には、タカを神の使者とするものが多い。タカを祀(まつ)ると幸いがあるとか、タカを見た人はよいことがあるとかいう。タカの飛び方で吉凶を判断する民族もある。タカが円を描いて飛ぶと多数の人が死ぬなどという。アイヌ民族では、タカは悪い神に食物を供給する料理番であると伝えるが、タカそのものはよい神で狩猟のときに獲物を追い出してくれるという。熊送り(くまおくり)と同類のタカ送りの儀礼を行う習慣もあった。タカを籠(かご)に入れてたいせつに飼育し、殺すとき、タカのようなりっぱな射手になるようにと祈ると、聞き入れられるという。

[小島瓔

文学

鷹狩に用いられたのでなじみ深く、早くから文学作品によくみられ、『万葉集』にも大伴家持(おおとものやかもち)に鷹を詠んだ二つの長歌がある。平安時代には屏風歌(びょうぶうた)の画題として秋の「小鷹狩」や冬の「大鷹狩」がしばしば詠まれ、『古今六帖(こきんろくじょう)』第二「野」の項目にも、「大鷹」「小鷹」「大鷹狩」「小鷹狩」の題が設けられている。また、「鷂(はしたか)」もよく詠まれ、「鷂のとがへる山」という類句にもなっている。『大和物語(やまとものがたり)』152段の帝(みかど)が逃げた鷹を思って「言はで思ふぞ言ふにまされる」と詠んだ話、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』天禄(てんろく)元年(970)6月条の出家を願う母に同調した道綱(みちつな)が鷹を逃がして決意を示した話などはよく知られる。俳句の季題は「鷹」「鷹狩」が冬、「小鷹」「小鷹狩」が秋。「鷹一つ見付けてうれし伊良古崎(いらごさき)」(芭蕉(ばしょう))。

[小町谷照彦]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タカ」の意味・わかりやすい解説

タカ
hawks

タカ目タカ科のうち小型および中型の種の総称。大型のものはワシとして区別されているが明確な境界はない。一般に昼行性の猛禽類で,は鋭く曲がり,足の爪も鋭い。種あるいは体の大きさなどによって主食はやや異なるが,ほとんどが肉食である。生きた昆虫類,爬虫類,魚類,鳥類,哺乳類,カエルなどを捕えて食べる種が多いが,死肉を食べる種もある。また,体の大きさは雌のほうが大きく,とる獲物も大きい傾向がある。これはとる獲物の大きさを雌雄で違えて競合するのを避けているからだと考えられている。オオタカハイタカチュウヒノスリツミなど 150種以上が知られている。

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世界大百科事典(旧版)内のタカの言及

【凧】より

…〈凧〉の字は国字である。たこの呼名は江戸時代に江戸から広まったもので,関西では〈いか〉〈いかのぼり〉〈のぼり〉,九州では〈たこばた〉〈はた〉,その他地方によって〈たか〉〈たつ〉〈てんぐばた〉など方言も多い。英語のkiteはトビ,ドイツ語Dracheは竜,スペイン語cometaはすい星,ヒンディー語patangはチョウが原義で,いずれも空を飛ぶものを表している。…

※「タカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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