イヌツゲ(読み)いぬつげ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌツゲ」の意味・わかりやすい解説

イヌツゲ
いぬつげ / 犬黄楊
[学] Ilex crenata Thunb.

モチノキ科(APG分類:モチノキ科)の常緑低木で、高さ3メートルに達する。樹皮灰褐色。葉は厚くて硬く、普通長さ1.5~3センチメートル、低い鋸歯(きょし)がある。花は6~7月に開き、白色。雌雄異株。核果は球形、紫黒色に熟す。本州から九州、さらに済州島に分布する。変異に富み、本州の日本海側、北海道、千島樺太(からふと)(サハリン)には幹が地表をはう変種ハイイヌツゲが、九州の南部には葉が薄くて大きく果柄の長い変種ツクシイヌツゲが、関東南部から四国、九州にはオオバイヌツゲが、九州の南部、沖縄、台湾には枝に明瞭(めいりょう)な稜(りょう)があって葉の鋸歯が目だつ変種シマイヌツゲ(ムッチャガラ)がそれぞれ分布する。庭木としてもっとも普通に栽植される。名は全体の感じがツゲに似るためであるが、ツゲは葉が対生、イヌツゲは互生で、明らかに異なる。ツルツゲI. rugosa Fr.Schm.は幹が地表をはう点でハイイヌツゲに似るが、果実が赤く熟し、葉脈がへこむ点で区別される別種で、北海道から本州中部地方、千島、樺太の亜寒帯針葉樹林に生える。

[門田裕一 2021年11月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イヌツゲ」の意味・わかりやすい解説

イヌツゲ(犬黄楊)
イヌツゲ
Ilex crenata

モチノキ科の常緑小高木。北海道を除く日本のほぼ全域に分布し,また庭木や公園樹として各地でごく普通に栽植される。枝は灰褐色でよく分枝し,長さ2~3cmの小さな小判形の葉を密に互生する。刈込みによって自由に樹形を造形できる。葉は濃緑色の革質でまばらに鋸歯があり,裏面淡色である。5~6月に,葉腋に小さな4弁の白花をつける。雌雄異株で,雄花は数花が花序をつくるが,雌花は葉腋に1花ずつつく。果実は径数 mmの球形で黒く熟する。樹皮に粘性物質を含み,モチノキ同様,かつて鳥もちとして使われた。なお,ツゲ (黄楊)と似ているが,枝が丸いこと (ツゲでは4稜がある) ,葉が互生して鋸歯があること (ツゲでは対生して全縁) ,果実が球形なこと (ツゲでは角張った 蒴果) などで容易に区別できる。

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