上海語(読み)シャンハイご

改訂新版 世界大百科事典 「上海語」の意味・わかりやすい解説

上海語 (シャンハイご)

中国の上海市で使用される呉語中国語(呉方言)のなかの代表的方言の一つ。〈上海話〉,あるいは〈滬語(こご)〉という。上海は1840年代の開港・租界設置から近代商工業都市への発展の過程で,各地からの移住により急激な人口増加をみた。1930年代の原籍調査による上海市(市区)の人口構成は,原住者25%,蘇州無錫常州寧波紹興など周辺各地の呉語地区出身者48%,その他の非呉語地区出身者27%といわれる。上海語は人口の約半数を占める呉語地区出身者のさまざまな呉語から影響を受け,これを吸収しながら変化してきた。また,共通語の全国的な普及も上海語に顕著な影響を与えている。現在,上海語内部にある複雑な語音の差異は主としてこれらに起因している。

(1)中古(隋・唐)中国語音韻体系の全濁音に対応する有声音声母b-,d-,g-,dz-,z-,v-,ɦ-などが残されている。(2)中古音の入声韻尾-p,-t,-kは脱落し,すべて声門閉鎖音[ʔ]となっている。(3)声調は,市区では陰平(53),陰去(34),陽去(24),陰入(5),陽入(23)の5種類で,呉語のうち最も簡略化されたかたちとなっている(( )内は声調調値)。語彙的には周辺各地の呉語と共通する部分が多いが,人称代名詞にはそれぞれかなりの違いがある。

 中国語の音訳外来語には,西欧文明輸入の主たる門戸であった上海の漢字音を用いたものが多い。例:沙発[so faʔ]sofa,雪茄[siʔɡa]cigar,馬達[mo daʔ]motor,伏特[voʔ dəʔ]volt,維他命[vit`a min]vitamin,愛迪孫[ diʔ sən]T.A.Edison,([ ]内は上海音。声調省略)。上海語を用いる文芸として,〈滬劇〉〈滑稽戯〉などの演劇や〈上海説唱〉〈滬書〉〈独脚戯〉などの語りものがある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android