改訂新版 世界大百科事典 「アグネス」の意味・わかりやすい解説
アグネス
Agnes
ローマの名門生れの聖女。3世紀末か4世紀初めに殉教したとされる。名の由来はギリシア語の〈純潔〉,ラテン語の〈子羊〉などといわれる。ギリシアの伝説では大人,《黄金伝説》では13歳で,ローマのコンスルの息子の求婚を,すでにキリストの花嫁であるとして断り,迫害された。全裸で娼家へ引きたてられたが,髪が伸びて体をおおい,天使から輝く服を与えられた。辱しめようとした者は死に,彼女が祈ると生き返った。火刑にも無事であったが,首を剣で突かれて殉教。死後8日目に白い羊を連れて人々の前に現れたという。ローマのサンタニェーゼ・フオーリ・レ・ムーラ教会(7世紀)はその墓とされる地に建てられた。貞潔の聖女としてあがめられ,処女,婚約者などの守護聖人。美術における持物は白い羊。花冠,受難の道具の薪,炎,剣を伴うこともある。長い髪が全身をおおう姿でも表される。祝日は殉教の1月21日。かつてはよみがえった1月28日も祝われた。
執筆者:井手 木実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報