コンスル(その他表記)consul

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デジタル大辞泉 「コンスル」の意味・読み・例文・類語

コンスル

(〈ラテン〉consul)古代ローマ共和政期の最高官職で、定員2名。任期1年。民会一つである兵員会が選出権をもっていたが、ほとんど貴族が独占した。執政官
(consul)領事コンサル

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精選版 日本国語大辞典 「コンスル」の意味・読み・例文・類語

コンスル

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [ラテン語] consul ) ローマ共和政期の行政・軍事の長官。前五〇九年設置。二人制で任期一年。兵員会がその選出権をもっていたが、ほとんど貴族がこの地位を独占。前三六七年以後リキニウス法によって平民にも開放された。帝政時代には選出権は元老院に移り、権限は皇帝に移って実質的意義を失った。執政官。統領
  3. ( [英語] consul ) 領事。コンシュル。→こんしろう。〔アルス新語辞典(1930)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「コンスル」の意味・わかりやすい解説

コンスル
consul

古代ローマの最高公職者。執政官,統領などと訳す。前509年の共和政成立以降,毎年2名が選ばれたという。ケントゥリア民会の選挙後,コンスルはクリア民会でインペリウムを受け,先導リクトルの斧と棒に生殺与奪大権を示しつつ民政,軍事,祭祀,民会・元老院の開催等,国政全般を主導した。下位公職者への干渉権,市民懲戒の強権も帯びながら在任中は弾劾を免れ,元老院,護民官掣肘と1年任期,同僚制の厳守が専制を防いだ。独特なのは同僚制で,コンスル2名は同一権限の全く対等な立場にあり,干渉による公務差止めが互いに可能なので,ローマ市内では月番交替で執務し,戦地では1日交替とするか,任地を分けた。卓越した権限と権威のゆえに〈AとBがコンスルの年〉という紀年の定式(紀年法)が生まれ,コンスル就任日(3月15日。前153年から1月1日)を年初とした。このコンスル職は初めは多く有力貴族の手に帰し,身分間の闘争の曲折を経て,前367年リキニウス法が平民の就任を確認するが,この法の忠実な履行は前342年以降に属する。一因は選挙手続にあり,選挙の民会で現任コンスルが後任候補を指名し,市民に投票させたためである。このような候補者たり得る特定少数の平民はやがて有力貴族と結び,寡頭支配を実現する。他方,前443年からケンソルが市民登録,前367年からプラエトルが裁判を担当し,両権限は事実上コンスルの手を離れた。前2世紀にプロウォカティオ(民会裁判請求)の拡大,公職就任資格の確定等,実質的制約が加わるが,総じてコンスルは優位を保ち,前1世紀の動乱の間,実力者の国制無視のために権威を失墜した。帝政期には元首が自らコンスル職に就き,また就任予定者を指名したが,当のコンスルは元老院開催以外の重要権限を失い,名誉職化した。それでも制度上コンスルは,プロコンスル(コンスル代理)命令権を持つ元首の上級者なので,紀年の定式に長く名をとどめた。543年に最後の存在が知られる。
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百科事典マイペディア 「コンスル」の意味・わかりやすい解説

コンスル

古代ローマ共和政期の最高公職者。執政官または統領と訳される。定員2名,任期1年。民会の一つである兵員会で選出され,初めは貴族のみであったが前367年以降平民も進出し(リキニウス法),政治,軍事の大権を握る。帝政期にも存続したが,有名無実の官に化した。
→関連項目カエサルカトー[大]元老院(西洋)護民官ディクタトルノビリスプラエトルマリウス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コンスル」の意味・わかりやすい解説

コンスル
consul

古代ローマの最高政務官。執政官,統領などと訳される。前 509年共和政成立時に2人官として設置されたといわれる。互いに同等の権利をもち執務を交代し,その期間は1年で権力の集中,寡頭政の復活を妨げた。国政の最高官として,政治,軍事,裁判の最高権力を有し,元老院を主宰,兵員会の招集,法案提出を行なった。また外国に対しては国家を代表する存在で,必ず付人を随伴させた。兵員会から選出され,前4世紀まではパトリキ (貴族) が就任したが,前 367年のリキニウス法により1人はプレプス (平民) から選ぶこととされた。しかし翌年度のコンスル選挙に際して候補者をその年のコンスルが指名したため,就任者は一部の氏族が独占することとなった。共和政末期には G.マリウス,ユリウス・カエサルアウグスツスらの有力者が連年コンスルに就任するようになり,元首制の成立とともに元首,皇帝がみずから就任あるいは候補者指名を行うにいたって,有名無実なものとなり,前 180年定められた就任年齢 42歳以上との規定も無視された。職名自体は西方地域で 534年まで存続した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンスル」の意味・わかりやすい解説

コンスル
こんする
consul ラテン語

古代ローマの最高官職(最高の政務官)。執政官または統領と訳される。紀元前509年、共和政樹立とともに設置されたと伝えられる。コンスルはケントゥリア民会で選挙され、二人同僚制、1年任期、インペリウム(命令権)をもつ軍事、民政の最高の役人であった。戦時には軍司令官であり、ケントゥリア民会、元老院の招集、主宰のほか、包括的な国家権力の行使をゆだねられた。もとは貴族だけの就任が許されたが、法的には前366年から、実際は前342年以後、2人のうち1人は平民となった。帝政期になってもこの官職は存続したが、皇帝が自己または寵臣(ちょうしん)を推薦し、元老院で選出されるようになった。就任日は初め3月15日であったが、前153年からは1月1日となり、紀年はこの日に就任したコンスル名によって行われた(だれとだれがコンスルの年、というように)。帝政期には4か月または2か月しか任期をもたない例が多くなった。就任の年齢はキケロの時代には42歳以上とされたが、帝政期には幼児の就任例も現れた。西の帝国では534年までその存続がみられた。

[弓削 達]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「コンスル」の解説

コンスル
consul

古代ローマ共和政期の最高官職。執政官または統領と訳す。定員2名。任期1年。民会の一つである兵員会で選ばれた。初めパトリキに限られていたが,前367年以降プレブスにもその門が開かれた。政治と軍事の大権を握るが,政治の実権は共和政期には終身議員からなる元老院にあり,帝政期には有名無実の官に化した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「コンスル」の解説

コンスル
consul

古代ローマの執政官(統領)
前450年ごろ,共和政ローマの最高官職となる。定員2名,任期1年。兵員会によって選出され,最初パトリキに独占されたが,前367年リキニウス−セクスティウス法により1名はプレブスに開放された。最初は政治・軍事の大権が賦与されたが,帝政後は有名無実化した。

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世界大百科事典(旧版)内のコンスルの言及

【領事】より

…接受国において,派遣国とその国民を保護する国家機関。原則的には,一定の管轄区域(〈領事管轄区域〉という)内で任務を遂行し,管轄区域内の権限ある地方当局と交渉を行う。任務は,具体的には,旅券・査証の発給,派遣国の国民と法人の援助,在留自国民の出生・死亡・婚姻等の届出の受理,原産地証明・遺骨証明等各種の証明書の発給,訴状等の送達または証拠調べ,船舶とその乗組員の保護監督,船舶書類の検査,航行事故の調査,乗組員間の紛争の調停,派遣国と接受国の間の通商上,文化上,科学上の関係を発展させること,接受国の通商上,経済上の諸事情を確認し派遣国の政府に報告しかつ利害関係を有する者に情報を提供すること等である。…

【インペリウム】より

…〈命令権〉と訳す。平時,戦時を通じる市民統率の全権で,古くは王に,共和政期では特にコンスル(執政官)とプラエトルにクリア民会で賦与された。命令権保持者は国事全般を主導し,軍指揮や市民懲戒の強権を持つが,市民のプロウォカティオ(民会裁判請求)に制約された。…

【護民官】より

…本来の国家公職でないので平民が毎年,平民会で選挙し,前449年には定員10名が確定した。主務は何より平民救援で,公職者,特にコンスルの懲戒や公務執行を干渉権で阻止し,抵抗すれば逮捕,投獄し得た。民会立法,元老院決議にも干渉権を発動し,公職者の職権濫用,背任を民会裁判に付して罰金刑,死刑に処し,また決議や平民アエディリス,護民官の選挙のため平民会を主宰した。…

【コンスラード】より

…この法廷としての組織をコンスラードと呼び,利益集団としてのコンスラードをウニベルシダードuniversidadと呼んで区別する場合もある。構成員には商人に加え航海者が含まれる場合が多く,成員からプリオールpriorまたはフィエルfielと呼ばれる統括者1名とコンスルcónsulと呼ばれる数名の執行委員が選出された。役職者の任期は2年間で,30歳以上の既婚のスペイン人で一定以上の財産を有し小売店を経営していないことが条件とされた。…

【ディクタトル】より

…独裁官と訳す。軍事ないし内政の危機の際にコンスル(執政官)が指名する。ディクタトル(古名,歩兵マギステル)は騎兵マギステルを補佐に指名し,難局打開まで全市民,全公職者を命令権下におき,護民官の干渉も退けたが,任期は6ヵ月を超えなかった。…

【独裁】より


[古代ローマのディクタトル]
 独裁dictatorshipの語自体は,古代ローマのディクタトル(独裁官)の制度にはじまる。共和政初期のローマでは,王政以来の立法機関としての民会・元老院のもとで,平時には2名のコンスルが任期1年で政務をつかさどり相互に職務を牽制しあうことになっていたが,貴族と平民の対立や外敵とかかわる非常時には,1名のディクタトルが任期半年で統治にあたることとされていた。このディクタトルは,もともと王政時代の軍長官から発達したもので,非常時軍政的性格をもっていた。…

【プラエトル】より

…法務官と訳される。原義は〈先に進む者〉(指揮者)で,コンスル(執政官)の古称ともいう。前366年,母市プラエトルが設けられて市民間の訴訟を担当し,前242年に市民・外人間の訴訟を扱う外人係プラエトル,前227年に属州シチリア,サルディニア担当のプラエトル2名を加え,最終的に定員18名になった。…

【プロコンスル】より

…古代ローマのコンスル(執政官)代理。前4世紀末以降,外征中のコンスルに任期満了後も命令権の一時的保持を許すことがあり,現任コンスルの代理とみなした。…

【リクトル】より

…命令権をもつ公職者を先導し,職務執行の便宜を図る。コンスル(執政官)に12名,プラエトルに6名が定数で,斧の柄に棒を束ねたファスケスfascesを各自左肩に担い(民会では下ろす),命令権の峻厳を明示し,現実に逮捕,杖罰,斬首の命令を執行した。後に属州総督,ウェスタ女神の女祭司に,帝政期には元首の守護霊の祭祀役にも同行した。…

【領事】より


[沿革]
 このような領事制度は,中世の十字軍時代にイタリアの商業都市が東方地方の居留地に任命した行政長官vicomteに由来する。このvicomteがのちにコンスルconsulと呼ばれるようになり,他の西欧諸都市によっても採用されていったが,この時代の領事(コンスル)は,居留地の行政長官であると同時に,その居留地内の本国都市の商人たちの争いを裁く裁判官であり,また,駐在国政府と直接に交渉を行う権限も認められていた。しかし,近代国家が成立し,直接に国家により任命されるようになると,領事は,もっぱら相手国の一定の管轄区域内における本国および在留自国民の一定の利益の保護,ことに経済的利益の保護をつかさどる機関となった。…

【ローマ】より

…政務官は民会で命令権imperiumを与えられた国家全体の役人であるのに,護民官やアエディレスは政務官ではない点で劣ったが,平民はこのとき以後しだいに国政に発言力を強めていった。2人の政務官はまもなくコンスル(執政官)と呼ばれるようになる。 民会については,セルウィウス・トゥリウス王の改革とされる兵員会(ケントゥリア会comitia centuriata)が伝えられるが,これは前5世紀前半につくられたものであろう(ケントゥリア)。…

※「コンスル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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