アンブロシウス(読み)あんぶろしうす(英語表記)Ambrosius

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンブロシウス」の意味・わかりやすい解説

アンブロシウス
あんぶろしうす
Ambrosius
(339ころ―397)

ミラノ司教。4世紀後期の西方ローマ教会四博士の一人。ローマ貴族の子としてドイツのトリエルに生まれた。ローマで修辞学を修めたのち、370年北イタリアのリグリア州執政官、のちミラノの執政官となる。キリスト教の異端アリウス派の司教アウクセンティウスAuxentius(?―374)の死後、374年ミラノの聖堂で後継者論争の仲裁に入ったとき、「アンブロシウスを司教に」と少年が叫んだのが契機となって、急遽(きゅうきょ)受洗し、司教に叙任された。教会政治家、牧会者として、また新プラトン学派に属する知識人としても正統派擁護のために活躍、帝権の介入に抗して教会の独立をまっとうした。384年には異教の復興を目ざす元老院と戦い、勝利の女神ビクトリアの偶像安置案を退け、385~386年には圧倒的な民衆の支持を背景として、皇太后ユスティナJustina(?―388)と争って、アリウス派の手からミラノの聖堂を取り返した。テオドシウス1世によるテサロニケ市民7000人虐殺を糾弾し、皇帝を懺悔(ざんげ)させたことも有名である。また、彼は典礼聖歌を数多くつくり、『すべての創(つく)り主なる神よ』Deus creator omniumは、アウグスティヌスによってアンブロシウスの作品とされている。アウグスティヌスは、アンブロシウスの比喩(ひゆ)的な聖書釈義の方法に触れて回心に導かれるが、これは彼自身の独創というよりも、フィロンオリゲネスらのアレクサンドリア学派東方神学導入であり、彼の神学思想上の意義もまたこの点にあった。代表的な著作として『ヘクサメロン』6巻、『聖職本務論』3巻がある。

加藤 武 2015年1月20日]

『『石原謙著作集8 キリスト教の源流』(1979・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンブロシウス」の意味・わかりやすい解説

アンブロシウス
Ambrosius

[生]339頃.トリエル
[没]397.4.4. ミラノ
聖人。古代西方教会の四大教会博士の一人。 370年ミラノの執政官となり,アリウス派をめぐる論争の混乱状態を収拾,民衆に請われて 374年ミラノ司教となり,アリウス派と徹底的にたたかう。すぐれた説教家であり,その筆記されたものが彼の著作をなし,反アリウス派の諸著のほかに『聖職について』 De officiis ministrorum,『六日間天地創造論』 Hexaemeronが有名。彼はオリゲネスやアレクサンドリアのフィロンの聖書の寓意的解釈を摂取したほか,ローマのヒッポリツス,エイレナイオス,アンチオキアのイグナチオスらを学び,東方神学を西欧に移植。マリアの無原罪を主張し中世のマリア崇敬の祖となった。典礼と聖歌の革新の面では,アンブロジオ聖歌の名を残し,キリスト教賛歌の父と呼ばれ,「ミサ」の語を最初に使用した。祝日 12月7日。

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