イスラム国日本人人質事件(読み)いすらむこくにほんじんひとじちじけん

知恵蔵 の解説

イスラム国日本人人質事件

邦人2人が過激派組織「イスラム国」(ISIL)に拘束され、2015年1月に日本政府に2億ドルの身代金要求があった後、両名が「処刑」された事件。殺害されたのは民間軍事会社の湯川遥菜社長と、フリージャーナリストで自営する映像通信会社の後藤健二代表の2人。日本政府のテロ組織に対する邦人保護などの観点から国内外に大きな波紋を呼び起こした。
湯川は民間軍事会社のCEOを名乗っていたが企業実体はなく、民間人として度々中東に渡航していたという。シリア北部では11年頃からアサド政権とこれに対立する反政府組織との内戦状態にある。14年4月に同地入りした湯川は反政府武装組織「自由シリア軍」に拘束され尋問を受ける。同組織と交流のあった後藤が仲介に当たり、交渉によって湯川を解放した。これを機に2人は親交を深め、イラクのクルド人地域にも一緒に渡航したとされる。湯川は14年8月「自由シリア軍」と帯同して交戦中、「イスラム国」に捕虜として捕らえられる。彼を救出しようと、後藤は同年10月にシリア北部のIS支配地域に入ったとされている。何らかのルートで接触をはかるも、後藤もまた「イスラム国」に拘束されて、妻に身代金を要求するメールが届いた。15年1月17日には、中東歴訪中の安倍総理がカイロで「イスラム国」対策のために周辺諸国に2億ドルを拠出することを表明態度を硬化させた「イスラム国」は、同月20日に2人を人質に72時間の期限を限って2億ドルの身代金を要求する動画を投稿サイトに掲載した。日本政府はテロリストとは交渉しないとしてこれを拒絶。1月24日には湯川が殺害された。その後の交渉条件は、ヨルダンに収監されている死刑囚と捕虜になったヨルダン空軍パイロットの交換などに変遷するが、2月1日には後藤も殺害された。これを受けて安倍首相は「決して許さない」と強い姿勢を示す異例の発表を行い、米国のオバマ大統領は「勇敢な報道人であった」とたたえた。事件を巡って、政府の動きや紛争地域での邦人保護、武装組織への対処など様々な課題があることが指摘されている。

(金谷俊秀 ライター/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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