日本大百科全書(ニッポニカ) 「飛梅伝説」の意味・わかりやすい解説
飛梅伝説
とびうめでんせつ
梅の木が飛来して、その場所に根づいたという伝説である。福岡県の太宰府(だざいふ)天満宮にある飛梅が有名である。菅原道真(すがわらのみちざね)が左大臣藤原時平(ときひら)の讒言(ざんげん)によって大宰府に左遷されるとき、邸内の梅の木に「こち吹かば匂(にお)い起こせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」と詠んだので、その梅の木が天満宮に飛んだという。歌の威力を示す内容で、早くから『十訓抄(じっきんしょう)』などの説話集に取り上げられている。悲憤の死後、雷神となって天下を震撼(しんかん)させる道真の威力を、生前のできごとで印象づけるかっこうの材料となった伝説である。ただ、この伝説の背景には「飛び神信仰」があるといわれる。
元来、神霊は空中を自由に飛び回り、人々の求めに応じて降臨すると考えられていた。その代表的なものが飛び神明(しんめい)である。伊勢(いせ)の神が各地に飛来してはその地の守護神となったという伝えがある。このような飛び神信仰と道真の威光とが結び付いた伝説なのであろう。
[野村純一]