雷を神格化した神。雷電様(らいでんさま),鳴神(なるかみ),ドンド神,ハタ神,イナズマ様,イカヅチ,カミナリなど雷鳴や雷光にもとづく名称が多い。雷神は水神かつ火神として,天と地をつなぐ媒介者とみなされ,また雷はカンダチと称せられるように神の示現をも意味した。雷神は日神の分身であり,水火両面をつかさどるところから,鍛冶神とも深いつながりをもつが,一方ではイナズマ,イナビカリといわれるように稲の豊作をもたらす神とされ,雷の落ちた水田に青竹をたてしめ縄をはる風習が各地でみられた。平安時代には御霊(ごりよう)信仰と結びつき,北野天神の出現後はその眷属神(けんぞくしん)として統御された。雷は二つの対立するものを急激に結合させ,両者を媒介する存在であるが,それゆえ,世の中に蓄積した罪や穢(けがれ)を一掃し,儀礼的に浄化更新する役割も有している。雷は〈地震,雷,火事,おやじ〉といって恐ろしいものの代表とされているが,これらは一種のカタストロフで,世界を再生する役割を一面でもっているのである。雷は季節の変り目に鳴り,雷の鳴る方向でその年の天候や運勢を占う風もある。また,各地の雷電神社は,雨乞いに効験があるとされ,栃木や群馬など雷の多い地方では雷よけのお札も出されていた。
→雷
執筆者:飯島 吉晴
雷公,雷師,雷祖ともいう。天命を受けて刑罰を下す天帝の属神。雷は天の怒りで,落雷は天が竜や妖怪を捕らえるため,人を撃つのは罪過を罰するためと古来信じられ,その形象は古くは腹鼓を打つ竜身人首,漢代には連鼓をたたく力士と擬人化され,後世女神〈電母・閃電娘娘〉を配した。雷公が椎(つち)で鏨(たがね)を打ち鳴らし,電母が銅鏡でいなびかりを出すと俗に信じられ,廟殿に祭る所もあった。道教では軒轅(けんえん)氏が雷神とされる。
執筆者:鈴木 健之
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雷鳴と稲妻を神格化したもの。雷(かみなり)をおこす神。津村淙庵(そうあん)の『譚海(たんかい)』(1795)によれば、東西南北の中央に雷神があり、その名号(みょうごう)は『最勝王経』にあるとあり、その名号を書いた札を天井に貼(は)っておくと雷が落ちないという。稲妻というように稲の豊作をもたらす神とされ、落雷の多い関東平野などでは、田畑に落雷があるとその場所は1年だけ作物をつくらず注連(しめ)を張っておくという。陸稲を多くつくる関東平野では雨がないと困るので雷神を祀(まつ)った小祠(しょうし)が多くみられる。茨城県の筑波山麓(つくばさんろく)では、雷鳴がおこると青年が長い竹の先に鎌(かま)をつけたものを担いで田の周りを歩き、雷神を追い払う習俗がある。栃木県は全国でいちばん雷の多い土地であり、同県栃木市旧大平(おおひら)町地区には雷電神社というのが数社ある。福島県も雷の多い土地として知られ、雷神の小祠が集落単位で祀られている。わが国では古代以来雷神信仰がみられ、『日本書紀』などでは神体は蛇体とされている。平安時代には、御霊(ごりょう)信仰と結び付き、北野天満宮に祀られている菅原道真(すがわらのみちざね)は火雷(からい)天神ともいわれ、これを祀っている所には落雷することはないといわれている。『北野天神縁起』絵巻などに、雷神は鬼の形で、手に桴(ばち)を持ち連太鼓を負う姿で描かれている。また美術では、風神と一対になって造形されるのが例である。
[大藤時彦]
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…【北川 信一郎】
【雷の故事と俗信】
雷の諸現象のうち,ことに落雷は古代人には神の怒りの表現として恐れられ,早くから雷は崇拝の対象とされていた。マレー半島のジャングルに住むセマン族とよばれる小人族(ネグリト)は,民族学者の一部によって最原始的民族の一つといわれるものであるが,彼らは〈カリ〉とよばれる雷神を最高神,創造主として仰いでいた。中国の上帝にしろ,ギリシアのゼウス,ローマのユピテルにしろ,いずれも天空の最高神として崇拝されているが,その神性を雷電をもって表していた。…
…元来,別個に早くから尊崇され,中国では漢代の画像石に表される。日本でも級長津彦(しなつひこ)命と級長津比売(しなつひめ)命の男女の風神をまつる神社,霹靂(なるとき)神,鳴雷(なるいかずち)神,別雷(わけいかずち)神など,雷神をまつる神社が各地に見られるが,その像は造られなかった。一対の神々としては,仏教における千手観音の眷属である二十八部衆の傍らに表現される場合が多く,この場合,風神は風袋を,雷神は数個の小太鼓をそれぞれ肩より上方,あるいは頭上にささげる裸の力士形に表される。…
※「雷神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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