先天性食道閉鎖症

内科学 第10版 「先天性食道閉鎖症」の解説

先天性食道閉鎖症(先天性食道疾患)

(1)先天性食道閉鎖症(esophageal atresia)
 食道が途中で中断している先天異常である.食道と気管は前腸から発生し,胎生8週以前に分離が進んでいくが,その過程の異常により,食道閉鎖が発生する.食道閉鎖症の90%以上に気管と食道との間の交通(気管食道瘻:tracheoesophageal fistula:TEF)がみられる.発生頻度は5000〜10000の出生に1例とされており,やや男児に多い.食道閉鎖症は合併奇形を伴うことが多く,50%以上の症例に何らかの重篤な奇形を合併することが知られている.心奇形,消化管奇形,泌尿器系奇形,染色体異常などがおもなものである.また,低出生体重児であることが多い.一連の合併奇形にはVATER連合とよばれるものが有名で,これはV:椎骨奇形(vertebral),A:直腸肛門奇形(anal),TE:気管食道瘻(tracheo-esophageal fistula),R:腎奇形(renal)もしくは橈骨欠損(radial defect)の頭文字を合わせたものである.
分類
 わが国ではGrossの分類が広く用いられている(図8-3-1).最も多いのがC型で約90%を占める.これは上部食道が盲端となり,下部食道は気管食道瘻を形成し気管分岐部付近の気管膜様部と交通している.気管食道瘻を形成せず,上下食道が盲端となるA型がそれに次ぐ.E型はその形態からH型ともよばれ,食道閉鎖はなく,頸部に気管食道瘻のみが認められる.B型・D型はまれである.以上から,食道閉鎖で腹部にガス像が認められれば気管食道瘻のあるC型,なければA型と診断してまずよい.
臨床症状・診断
 出生前から羊水過多が多くの症例で認められ,羊水の嚥下ができないためと考えられている.胎児超音波検査で羊水過多と拡張した上部食道が認められれば本症が強く疑われる.出生直後からの呼吸障害と,口腔から泡沫状の唾液の流出を認める.経鼻的に挿入された胃チューブが胃内まで到達せず,口腔内にUターンしてくる(コイルアップサイン)ことから食道閉鎖の診断が確定する(図8-3-2).前述のように消化管のガス像の有無で,C型もしくはA型と診断できる.引き続き合併奇形の検索を行う.
治療
 心奇形や消化管の奇形などを術前に評価し,重症度を判定する.可能な限り一期的に根治手術(気管食道瘻閉鎖,食道食道吻合)を試みるが,上下食道の距離が長い場合(long gap)や低出生体重児でほかの重篤な心奇形を合併している場合はいったん胃瘻のみをおき,体重増加を待って根治手術を行う.
合併症
 ①食道吻合部の縫合不全,②術後吻合部狭窄,③胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux),④気管食道瘻の再開通,⑤気管軟化症.
予後
 食道閉鎖症は手術の難易度が高く,その治療成績が小児外科施設の治療水準を示すといわれてきた.現在では合併奇形を伴わない成熟児例では,ほぼ100%の治癒率が期待される.1500 g未満の低出生体重児例や重症心奇形合併例ではなお治療成績は不良である(表8-3-1).[前田貢作]
■文献
Gross RE: Surgery of Infancy and Childhood, WB Saunders, Philadelphia, 1953.
Maeda K, et al: Circular myectomy for the treatment of congenital esophageal stenosis due to tracheobronchial remnant. J Pediatr Surg, 49: 65-67, 2004.
日本小児外科学会学術・先進医療検討委員会:我が国新生児外科の現況—2008年新生児外科全国集計—.日小外会誌,46:101-114, 2010.
Spitz Ll: Esophageal atresia: past, present, and future. J Pediatr Surg, 31: 19-25, 1996.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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