家庭医学館 「羊水過多」の解説
ようすいかた【羊水過多 Polyhydramnios】
妊娠中の羊水の量には個人差があり、また妊娠の時期によっても異なりますが、時期を問わずに800mℓ以上の羊水がある場合を、羊水過多といい、これによっていろいろな症状がともなうものを、羊水過多症と呼んでいます。
数か月の間に徐々に増量するものを慢性羊水過多症といい、数日のうちに急速に増量するものを急性羊水過多症といいます。軽度の慢性羊水過多症は、全妊娠の約0.5%前後にみられ、高度の急性羊水過多症は、約0.1%以下とまれな病気です。出産回数が多いほど、また、分娩(ぶんべん)時の年齢の高いほど頻度が高くなるといわれています。
[原因]
原因としては、胎児(たいじ)側では脊椎披裂(せきついひれつ)(二分脊椎(にぶんせきつい))、無脳児などの神経管閉鎖不全、消化管上部の閉鎖などの形態異常によっておこることがあります。また、母体側では、心臓・肝臓・腎臓(じんぞう)の疾患や、糖尿病などが原因となるといわれています。
しかし、まったく胎児に異常のみられない原因不明の羊水過多も、約50%前後あるといわれています。
[症状]
羊水の量が多くなると、腹部は球形となり緊満感(きんまんかん)や疼痛(とうつう)を訴え、ときには呼吸困難、悪心(おしん)・嘔吐(おうと)、下肢(かし)や外陰部に浮腫(ふしゅ)(むくみ)や静脈瘤(じょうみゃくりゅう)をみることがあります。また子宮内圧は高まり、前期破水(ぜんきはすい)をおこしたり、流産や早産の可能性が高くなります。
また分娩時にも、分娩遷延(せんえん)(分娩が長引く)、臍帯(さいたい)や四肢の脱出、弛緩(しかん)出血などに注意が必要となります。
[検査と診断]
子宮内の羊水の正確な量を計測することは、たいへんむずかしいのですが、正常妊娠のときに比べて、子宮底長(しきゅうていちょう)(恥骨結合上縁(ちこつけつごうじょうえん)から子宮底部までの長さ)や腹囲の急激な増加がみられた場合、超音波診断法を用いて、羊水のおおよその量を測定するのが一般的な診断法です。
[治療]
母体に明らかな原因がある場合は、その治療を行ないます。羊水過多が急性で、症状が重い場合には、子宮収縮抑制剤を使用し、超音波診断を行ないながら、おなかに針を刺して羊水の排液を行ないます。症状が改善しなければ、早急に分娩させる必要があることもあります。
慢性の場合で、胎児に明らかな異常がなく、母体の症状が軽い場合は、安静のみでようすをみることもありますが、症状が現われた場合は、必要に応じて子宮収縮抑制剤を投与したり、羊水の排液を行なうことで、症状の軽減をはかることが可能です。
また、薬剤(インドメタシンなど)により羊水を減少させる方法も検討されています。