二葉亭四迷の翻訳小説。1888年(明治21)《国民之友》に2度に分載。原作はロシアのI.S.ツルゲーネフの短編集《猟人日記》の1編。秋9月中旬,主人公は白樺林の中で偶然,地主の従僕に捨てられる可憐な農夫の娘の最後のあいびきの場面を目撃し,娘の姿が脳裏に刻まれる。とくに前半部では,自然が主人公の位置から主体的に観察されている。また意味だけではなく,〈原文の音調〉を移すため句読点の数まで意識して訳出されており,生硬な訳語がかえって清新な詩情と近代文学の自然把握の眼を人々に印象づけた。国木田独歩,田山花袋など次代の文学者に与えた影響もみのがせない。《かた恋》(1896)に収録するにあたって全面的に改訳され,いっそう正確に,かつ熟した口語文になった。しかしその優劣は簡単には決めがたい。
執筆者:畑 有三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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