ロシアの作家ツルゲーネフの、25の独立した短編からなる小説集。22編は1847~52年に発表され、80年新たに三編を追加、現行のものとなる。作者はこの作品によって散文作家としての地位を確立した。中部ロシアのオリョール地方を舞台に、ハンターが道中で見聞したことをスケッチするという形式をとる。農奴体制下のロシア農民の生態がきわめて写実的に描かれ、背景をなす美しい自然と相まって、全編に詩情が漂っている。この書を読んでアレクサンドル2世は、農奴制廃止を決意したといわれる。農村小説の先例としてはグリゴロービチの作品があるが、それは過酷な農村の現実描写に優れるものの、暗すぎて救いがない。同じ田園小説にしても、フランスのジョルジュ・サンドの小説は、農村が美化され、理想化されすぎて、現実を離れた牧歌的なものとなっている。『猟人日記』の特色は、現実をまともに見つめながら、しかもなお叙情性を失わないところにある。農民のうちにある高貴な品性や、優れた才能や、民間伝承の詩的世界について語ることにより、かえって農奴制がどんなに人間を疎外する非人道的なものであるかを、強く印象づけたのである。このなかの一編『あひゞき』は二葉亭四迷(しめい)の名訳で知られる。
[佐々木彰]
『『猟人日記』(工藤精一郎訳・新潮文庫/佐々木彰訳・岩波文庫)』▽『『あひゞき』(『二葉亭四迷全集1』所収・1964・岩波書店)』
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… 彼は批評家ベリンスキーによって詩を断念させられ,戯曲に転じ,《村のひと月》(1850)など心理劇数編を書いた。チェーホフ劇の先駆となる作品で時代に先んじていたために理解されず,散文に移り,短編集《猟人日記》(1852)で文名を高め,文壇的地位を確立した。これは農奴制に対する芸術的抗議として読まれ,農奴解放に大きな役割を果たした。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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