書きことばに用いる〈まる〉(。または. )や〈てん〉(、または ,)などの符号。まるを句点,てんを読(とう)点という。〈まる〉や〈てん〉のほかに,〈なかてん〉(使い方の例:名詞・代名詞 マネー・サプライ),〈かっこ〉(( )),〈かぎかっこ〉(「 」),さらに,〈つなぎ〉(=),〈つなぎてん〉(-)などがある。これらの符号の使い方(これを句読法という)については,文と文の切れめに用いる句点のほかは,かなづかいのように,正書法としての基準は確立していない。したがって,ある作家が,口に出さないことばを示すために〈かっこ〉を用いても(例:(ほんとかな ?)彼はそう思った),それを正しくない使い方ということはできない。また,儀式ばった手紙などにのこっている,句読点を全然使わない書き方も,まちがった書き方とするわけにはいかない。しかし現在,だんだん使い方が固定しつつある。ただ,〈てん〉の使い方だけはとくに,人によってまちまちである。それは,文における〈語〉または〈文節〉の形式的関係のなんらかの切れめに用いる(例:男は、満18歳に、女は、満16歳にならなければ、婚姻をすることができない)ほかに,意味的関係の切れめにも用い(例:アメリカ人好みと、日本人好みと、の両方に合う),さらに,リズムの切れめに用いることもある(例:一人の老人が、赤絵皿に、うすく、きれいに切ってならべられた、美しい魚のさしみを)からである。これらの使い方は,いずれにしても,音声言語における息の切れめに対応させているけれども,さらに,かなばかり続いて読みにくくなるのを避けるという字面上の必要(〈わかち書き〉と同じ必要)から用いることがある(例:かたかな、あるいはひらがな)ので,いっそう〈てん〉の使い方が人によってまちまちになる。もともと句読点は,漢文訓読の場合に〈訓点〉の一種としてつけたのが初めだとされているが,それはただ読解のためのものにすぎなかった。句読点の基準をたてる最初の試みは,1910年(明治43)に,文部省の図書課が国定教科書のために設けた〈句読法案〉である。その後1946年(昭和21)に,文部省国語調査室編集の《くぎり符号の使ひ方》が出たが,これも句読点の一つの案として示されたのであって,正書法として認められたものではないのである。
英語,フランス語,ドイツ語などの〈句読点〉または〈句読法〉にあたるのはパンクチュエーションpunctuationで,3種類に分けられる。まず,文と文との切れめを示す符号として,ピリオドperiod(.),疑問符question mark( ? ),感嘆符exclamation mark(!)があり,それぞれ叙述・疑問・感嘆(命令)の意味をあらわす。文のなかの部分と部分との切れめを示す符号として,コンマcomma(,),セミコロンsemicolon(;),コロンcolon(:)があり,この順序に切れめが長くなる(該当する息の切れめが時間的に長くなる)。このほか,話線の性質が変わるときに用いる符号として,引用符quotation marks(“ ”など),かっこparentheses(( )),角かっこbrackets([ ]),ダッシュdash(-),ハイフンhyphen(-),アポストロフィapostrophe(')などがあり,これらは日本語でも横書きのときに用いられるようになりつつある。なお,文のなかのある部分を強調するために用いるイタリックitalics,頭(かしら)文字法capitalizationなど,なにかつけ加えるのではなく,字面に手を加える場合もいれれば4種類になる。個人によるちがいもあるが,正書法としてほぼ確立している点で,日本語の句読点・句読法と異なる。
執筆者:柴田 武
西洋風の句読点が,日本で最も早く行われたのは16世紀末から17世紀初めへかけてのキリシタン版においてである。そのローマ字綴(つづり)本ではピリオドやコンマ以外にコロンもセミコロンも疑問符も感嘆符も行われた。国字本では《サルバトル・ムンヂ》や《朗詠雑筆》の表紙裏から発見されたかたかな木活字版の断簡4葉にあるのがいちばん古い。ひらがな活字版1600年(慶長5)刊《どちりな・きりしたん》,1610年刊《こんてむつす・むん地》などにもある。しかし国字本ではその使用は退化して,多くのひらがな活字本では全然使用しない。これは日本の文章の終りが動詞・助動詞の終止形で結ばれ,各種の助詞が疑問符や感嘆符やコンマの役目をはたすので重複になるからである。日本文にふたたび西洋風の句読点があらわれるのは1837年(天保8)シンガポール版ギュツラフ訳《約翰(ヨハネ)福音之伝》《約翰上・中・下書》においてである。訳者は句読点に〈、.。。〉の4種をつかって,ルター訳《新約聖書》にコロンやセミコロンのあるのを日本文にうつそうとつとめた。復活キリシタン版でも《胡無知理佐无(コンチリサン)之略》の題言,《ラテン語オラシヨ集》《ビルゼンノささげのオラシヨ》《さんたまりやの七ツの御かなしみ》《たつときゆかりしちやのこと》《生月聖教伝》《オラシヨ並ニヲシヘ》《きりしたんのうたひ》などに再現した。江戸時代の蘭学系統の翻訳書にも句読点は見られるが,コロンやセミコロンの導入にまではいたらなかった。
純文芸の分野では尾崎紅葉や山田美妙が1886年(明治19)5月筆写本《我楽多(がらくた)文庫》8の巻に,白ゴマ点〈 〉の形でセミコロンを用いたのが初めてである。美妙は《新体詞選》《新体詞華少年姿(わかしゆすがた)》へと続行した。幸田露伴《風流仏》や,矢崎嵯峨の舎の諸作品がこれに加わる。一方で北村透谷も1887年から二つ重ねの黒ゴマ点〈、、〉をセミコロンや感嘆符に使用した。《楚囚之詩》《蓬萊曲》などでは白ゴマ点の形式に合流した。文の終りに終止点の〈まる〉を打たずに,〈てん〉をセミコロン風に使って,いくつかの文の結合をねばり強く積み重ねてゆく形式も常用した。以上の諸家により1886年から90年代へかけて近代日本文学史上に西洋風句読法の短い一時期が成立した。これが90年代の終りに消えたのは300年前のキリシタン版の場合とおなじ経過のくりかえしである。以後,日本の句読点はコロンやセミコロンを欠く単式句読点で今日にいたっている。単式句読点は漢文の訓点法からきたものである。コロンやセミコロンがなければ語と語,文節と文節,句と句,文と文の並列的関係や音調的関係を区別・調節するにとどまる。〈まる〉や〈てん〉以外にコロンやセミコロンをも使って,文の構造の論理的・重層的関係を表面にあらわに出して示すのが複式句読点である。日本の詩文にも微妙な変化に富む一種の平面的構造性があるが,その構造性は西洋の詩文の構造性とは異質なので,複式句読点の重苦しさをきらう。しかし日本の詩文にも論理的・立体的構造性の発展をのぞもうとすれば,おのずから句読点の問題がからむ。
執筆者:勝本 清一郎
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書きことばにおいて、書き手の意図を正しく伝えることを目的として、文の構造や語句相互の関係を示すための記号。くぎり符号ともいう。狭義には、句点〈まる〉「。」と読点(とうてん)〈てん〉「、」をさし、これに並列点〈なかぐろ、なかてん〉「・」を加えることもある。広義には、狭義のものに加えて、〈かぎ、かぎかっこ〉「 」、〈二重かぎ〉『 』、〈丸かっこ、パーレン〉( )、〈角がっこ〉〔 〕、〈疑問符〉?、〈感嘆符〉!、〈リーダー〉……、〈ダッシュ〉――なども含める。
また、横書きの文章では以下のようなものも用いられる。〈ピリオド〉.、〈コンマ〉,、〈コロン〉:、〈セミコロン〉;、〈ハイフン〉‐、〈引用符〉“ ”。
句読点の用い方(句読法)は、日本語についてはいまだ確立しておらず、種々の方式が提唱されているが、その一例として文部省(現文部科学省)による「くぎり符号の使い方」(文部省『国語の書き表わし方』付載、1950年12月)に示された原則を簡略化して次に掲げる(かならずしも原文のとおりではない)。
(1)「。」は、一つの文を完全に言い切ったところにかならず用いる。「 」や( )の中でも用い、また「……すること・もの・者・とき・場合」などで終わる項目の列記にも用いる。ただし、(a)題目・標語など簡単な語句を掲げる場合、(b)事物の名称だけを列記する場合、(c)言い切ったものを「 」を用いずに「と」で受ける場合、には用いない。
(2)「、」は、文の中でことばの切れ続きを明らかにしなければ誤解されるおそれのあるところに用い、また対等の関係で並ぶ同じ種類の語句の間に用いる。ただし、題目や標語、簡単な語句を並べる場合には使用しない。
(3)「・」は、名詞の並列の場合に用いる。ただし、名詞以外の語句を列挙したり、数詞を並列する場合には用いない(「、」を用いる)。
(4)( )は、語句や文の後ろに、それについて注記する場合に用いる。
(5)「 」は、会話や語句を引用するとき、あるいは注意を喚起する語句のある場合に使用する。
(6)『 』は、「 」の中にさらに語句を引用する場合に用いる。
[月本雅幸]
『斎賀秀夫他著『続日本文法講座2 表記篇』(1958・明治書院)』▽『加藤彰彦他著『講座正しい日本語3 表記篇』(1971・明治書院)』▽『小林芳規他著『現代作文講座6 文字と表記』(1977・明治書院)』▽『杉本つとむ著『日本語講座4 語彙と句読点』(1979・桜楓社)』
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