改訂新版 世界大百科事典 「アメリカヌマジカ」の意味・わかりやすい解説
アメリカヌマジカ
marsh deer
Blastocerus dichotomus
南アメリカ最大の偶蹄目シカ科の哺乳類。ペルー,ボリビア,ブラジル南部,パラグアイからウルグアイ,アルゼンチン北部までの湿原にすむ。肩高1.1~1.2m,体長1.8~2m,体重100~150kg。背がややまるく,四肢が長く,角は大きく4~5尖(せん),二またの第1枝は基部のはるか上方から出る。体毛は長くもつれ,夏毛は黄赤色,冬毛は赤褐色,のどと目のまわりは白色,四肢の下半部と尾の下面は黒色,上唇に1黒斑がある。長さ7~8cmもある2個のひづめは広く開き,側蹄(そくてい)も大きくぬかるみを歩くのに適する。川,沼などに近い高い草の茂った湿地に1頭または6頭以下の家族群ですみ,昼は茂みに身を潜め,夜出てアシなどの草や水草を食べる。よく水に入る。繁殖期は不定,妊娠期間は270日とも360日ともいわれる。1腹1子。交尾期に雄が闘うことはない。原住民は狩って皮を利用し角は薬用とする。開発,狩猟などで生息数が激減,ウルグアイでは絶滅したと見られる。
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報