アレルギー遺伝学の歴史

内科学 第10版 「アレルギー遺伝学の歴史」の解説

アレルギー遺伝学の歴史(アレルギー性疾患の遺伝子)

(1)アレルギー遺伝学の歴史
 アレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患である.この数十年,アレルギー疾患の発症率は急増しており環境要因は発症の大きな要因と考えられる.しかし,同一の環境下で,アレルギーを発症するヒトと発症しないヒトが存在することから,この環境への応答性の個体間差に遺伝要因(ゲノム多様性)が関与していると考えられている.アレルギーの遺伝子研究は急速なゲノム解析技術の進歩に伴い,希少疾患,遺伝性疾患の解析から頻度の高いありふれた疾患(common disease)へ,頻度の低い遺伝子変異から頻度の高い遺伝子多型へと進んできた(図10-22-6).
 2000年にアレルギー疾患を合併する希少遺伝性疾患であるNetherton症候群の原因遺伝子としてSPINK5が同定された.Netherton症候群は常染色体劣性の魚鱗癬であり,血清IgE高値,食物アレルギー喘息の症状もみられる.2001年にこのSPINK5の遺伝子多型がアトピー性皮膚炎の発症に関連することが報告された.
 また,アトピー性皮膚炎様症状を伴う原発性免疫不全症の疾患遺伝子探索も行われた.高IgE症候群は,反復性の黄色ブドウ球菌による皮膚・肺膿瘍,新生児期からはじまるアトピー性皮膚炎様の皮疹,血中IgE高値を3主徴とする疾患である.2007年にこの原因遺伝子の1つとしてSTAT3が同定された.高IgE症候群の中に3主徴に加え顔貌異常,骨・歯牙の異常がみられる群が存在するが,この多系統の異常を伴う高IgE症候群の70%にSTAT3の異常が確認された.患者にはミスセンス変異やインフレーム欠失が認められ,機能的にdominant negativeに作用することにより,STAT3のDNA結合活性の低下が確認されている.この高IgE症候群は家族性(常染色体優性)に認められることもあるが,90%以上はde novoの突然変異である.STAT3は非常に多くのサイトカイン増殖因子,ホルモンの情報伝達に関与していることから,前述のような多彩な臨床症状が出現すると考えられている.このほかの高IgE症候群の原因遺伝子として,2006年にTyk2が同定されている.Tyk2はⅠ型IFN,IL-6,IL-10,IL-12,IL-23など多くのサイトカインのシグナル伝達を担う分子であり,患者ではホモ欠失(homozygous deletion)によるTyk2蛋白の欠損が認められた.[玉利真由美]
■文献
Irvine AD, et al: Filaggrin mutations associated with skin and allergic diseases. N Engl J Med, 365: 1315-1327, 2011.
Ober C, et al: The genetics of asthma and allergic disease: a 21st century perspective. Immunol Rev, 242: 10-30, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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