日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンミン錯塩」の意味・わかりやすい解説
アンミン錯塩
あんみんさくえん
ammine complex salt
金属イオンにアンモニアNH3が配位した錯塩をいう。アンモニア錯塩ともいうが、配位子としてのNH3をアンミンとよび、このようにいうのが普通である。一般に金属の塩類は、水溶液中では水分子が金属イオンに配位したアクア錯イオンとなっており、この水をアンモニアで置換したものがアンミン錯イオンである。ほとんどの金属イオンについて知られており、たとえば のようなものがある。またエチレンジアミンやピリジン、ビピリジンなどの有機アミン類が配位した錯体を含む塩もアンミン錯塩ということが多い。
一般に遷移金属のアンミン錯塩は、塩の水溶液にアンモニアを反応させてつくられる。しかし非遷移元素の場合には、塩の水溶液中でアンモニアを反応させても、反応しないか、水酸化物を沈殿するなどして得られないことが多い。したがって、ハロゲン化物固体に乾燥したアンモニアを通ずるか、液体アンモニアを作用させるなどしてつくられる。遷移金属のアンミン錯塩は、一般にアクア錯塩より安定であるが、反対に非遷移金属の塩ではきわめて不安定であり、水で加水分解してしまうことが多い。たとえばコバルト(Ⅲ)、クロム(Ⅲ)、白金(Ⅳ)などのヘキサアンミン塩では、200℃に熱してもアンモニアを失わず、水酸化ナトリウム水溶液、濃硫酸中でも熱しない限り分解しないが、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムなどのアンミン錯塩は、水に溶かしただけで分解する。コバルト(Ⅱ)、鉄(Ⅲ)、銅(Ⅱ)などのアンミン錯塩は、希酸、希アルカリで分解する。遷移金属のアンミン錯塩には有色のものが多いが、非遷移金属のアンミン錯塩はすべて無色である。
[中原勝儼]