水による分解反応を広く加水分解といい,酢酸ナトリウムのような塩(えん)の加水分解,酢酸エチルのようなエステルの加水分解,デンプンやタンパク質の加水分解など,化学反応には加水分解の例が多い。強酸と強塩基との中和によりできた塩,たとえば食塩は,水に溶かすとナトリウムイオンと塩素イオンに電離するだけであるが,酢酸ナトリウムや炭酸ナトリウムのように弱酸と強塩基からできた塩,塩化アンモニウムや硫酸アルミニウムのような強酸と弱塩基からできた塩,さらに酢酸アンモニウムのように弱酸と弱塩基からできた塩は,それを水に溶かすと加水分解が起こる。酢酸ナトリウムCH3COONaは水溶液中で解離してCH3COO⁻とNa⁺になり,CH3COO⁻の一部は水と反応して酢酸分子CH3COOHとOH⁻を生ずる。
CH3COO⁻+H2O⇄CH3COOH+OH⁻
このOH⁻のため酢酸ナトリウムの水溶液はアルカリ性を示す。この化学平衡に質量作用の法則をあてはめると,と書け,Khが加水分解定数である。なお[H2O]は一定とみなされるので除いてある。一方,塩化アンモニウムNH4Clの水溶液は加水分解でできたH3O⁺のため酸性を呈する。
NH4Cl─→NH4⁺+Cl⁻,NH4⁺+H2O⇄NH3+H3O⁺
エステル,たとえば酢酸エチルCH3COOC2H5は水に溶けにくいが,少量の希硫酸を加えて熱すると水素イオンが触媒として働き,水と反応して酢酸とエチルアルコールに分解する。
CH3COOC2H5+H2O⇄CH3COOH+C2H5OH
デンプンも水素イオンの触媒作用で加水分解を受け,最終的にはブドウ糖になる。タンパク質は分子量のきわめて大きな化合物であるが,加水分解により分子量の小さな化合物に変わり,最終的にはアミノ酸になる。食物が消化器中で消化されるのも加水分解反応であり,デンプンはアミラーゼの触媒作用で加水分解を受けて麦芽糖に,さらにマルターゼの作用でブドウ糖になる。脂肪はリパーゼの作用で加水分解され,タンパク質はペプシンやトリプシンの作用で加水分解される。
執筆者:佐野 瑞香
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水溶液中の溶質が水分子と反応しておこす分解反応をいい水解ともいう。水に限らず、溶液中で溶質と溶媒分子とでおこる分解反応は加溶媒分解ソルボリシスsolvolysisという。
弱酸HAと強塩基MOHの塩MAの水溶液ではA-イオン(陰イオン)が、一部水分子と反応して水酸化物イオンを生じ(式1)、また強酸HXと弱塩基BOHの塩BXの場合は、B+イオン(陽イオン)が反応して水素イオンを生ずる(式2)。
これらの平衡を加水分解平衡といい、MA塩の溶液は塩基性、BX塩の溶液は酸性を呈する。Al3+、Fe3+などの多価金属イオンの強酸塩を水に溶かすと、これらの金属イオンは加水分解を受ける。
加水分解が進行すると水酸化物になり、コロイド化したり、沈殿になったりする。
脂肪、エステル、酸アミド、タンパク質、ペプチド、糖などの有機化合物も加水分解を受けるが、一般に水分子がHとOHに分かれる複分解反応の形式をとる。エステルの加水分解を例にとると、
となるが、反応速度は比較的遅く、酸や塩基が触媒となることが多い。有機合成や工業化学におけるとともに、生化学においても加水分解酵素が触媒となる重要な反応が知られている。
[岩本振武]
【Ⅰ】金属イオンあるいは有機塩などと水との酸塩基反応をいう.一般に可逆的であり,次のような例がある.
[Al(H2O)6]3+ + H2O [Al(H2O)5OH]2+ + H3O+
CH3COO- + H2O CH3COOH + OH-
【Ⅱ】エステル,アミド,ニトリルなどでC-O結合やC-N結合が開裂し,両成分にそれぞれHとOHあるいは H2 とOが付加した形の生成物を与える反応をいう.次のような例がある.
RCOOR′ + H2O → RCOOH + R′OH
RCONHR′ + H2O → RCOOH + R′NH2
RCN + 2H2O → RCOOH + NH3
加水分解反応は,酸,塩基,酵素によって促進される.工業的にも,油脂からの脂肪酸とグリセリンの製造,デンプンからのグルコースの製造など重要な反応がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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