アクア錯塩(読み)あくあさくえん(その他表記)aqua complex salt

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アクア錯塩」の意味・わかりやすい解説

アクア錯塩
あくあさくえん
aqua complex salt

水分子H2Oが配位している錯塩総称。すなわちアクアイオンを有する塩をいう。古くはアコ錯塩といった。たとえば単塩の水和物とされていた硫酸マグネシウム七水和物MgSO4・7H2Oや、塩化アルミニウム六水和物AlCl3・6H2O、硫酸鉄(Ⅱ)七水和物FeSO4・7H2Oなどは、実は次のようなアクアイオンの塩、すなわちアクア錯塩なのである。

 MgSO4・7H2O :[Mg(H2O)6]SO4・H2O
 AlCl3・6H2O :[Al(H2O)6]Cl3
 FeSO4・7H2O :[Fe(H2O)6]SO4・H2O
 また3種の異性体が知られている塩化クロム(Ⅲ)六水和物CrCl3・6H2Oも、水分子は単なる結晶水だけでなく、配位している水、すなわち配位水が含まれていて、次のような3種のアクア錯塩である。

  [Cr(H2O)6]Cl3 紫色
  [CrCl(H2O)5]Cl2・H2O 青緑色
  [CrCl2(H2O)4]Cl・2H2O 緑色
 アクア錯塩は、非遷移元素の場合にはすべて無色、遷移元素ではほとんどが有色である。多くの点でアンミン錯塩とよく似ており、アクア錯塩の水分子をアンモニア分子に変えたものがアンミン錯塩であるため、つねに対比される。アクア錯塩の水分子は配位水であるため、加熱脱水しようとしても単純に脱水できない場合がかなりある。たとえば、硫酸マグネシウム七水和物や硫酸銅(Ⅱ)五水和物CuSO4・5H2Oでは、強く熱すると水分子を失い、それぞれの無水和物となるが、塩化アルミニウム六水和物や塩化クロム(Ⅲ)六水和物は、熱すると無水和物とはならずに、水分子とともに塩化水素を失い、酸化物となる。アクア錯塩の水溶液中では、アクアイオンは一般に配位子解離によって酸性を増す。たとえば塩化鉄(Ⅲ)七水和物は実際には[Fe(H2O)6]Cl3-H2Oのようなアクア錯塩であり、水溶液中では
  [Fe(H2O)6]3++H2O―→
   [Fe(OH)(H2O)5]2++H3O+
のようにして酸性を示す。したがってその傾向の強いものでは、正塩は通常の水溶液からは得られない。たとえば鉄(Ⅲ)塩はpH1以下の強酸性水溶液からでなくては得られない。

[中原勝儼]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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