アミン(読み)あみん(英語表記)Hafīzullah Amīn

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アミン」の意味・わかりやすい解説

アミン(化合物)
あみん
amine

アンモニアNH3の水素原子を炭化水素残基R(アルキル基あるいはアリール基)で置換した化合物の総称。置換した基の数によって第一級アミンR-NH2、第二級アミンRR'-NH、第三級アミンRR'R"Nに分類される。一般にベンゼン環に直接アミノ基が結合しているものを芳香族アミンといい、アルキル基のみのアンモニア置換体を脂肪族アミンといって、区別している。

 分子内のアミン窒素原子が1個のものをモノアミン、2個のものをジアミン、3個、4個のものをそれぞれトリアミン、テトラアミンといい、2個以上のアミン窒素原子をもつものを一括してポリアミンという。

[山本 学]

命名法

アミンの名称は一般に、窒素に結合した基を列記したあとに「アミン」を付記して表す。たとえば、メチルアミンジフェニルアミンエチレンジアミンなどである。芳香族アミンや環状アミンでは、アニリン、トルイジンピペリジンアジリジン、ピリジンなどのように慣用名をもつものが多いが、語尾が-ine(イン)でアミンであることを表す。

[山本 学]

存在

低位の脂肪族アミンはタンパク質が腐敗分解するときに生ずる。たとえば、古くなった魚の臭気は主としてアミンに起因する。芳香族アミンや複素環式アミンのなかには、ピリジンやピコリンのようにコールタール中に含まれているものもある。植物中に存在し、著しい生理活性をもつ複雑な構造のアミンは、アルカロイドとよばれ、医薬、農薬として重要なものが多い。

[山本 学]

製法

第一級アミン

第一級アミンの製法には次のようなものがある。

(1)ニトリル、アミドなどの還元


ニトリルの還元は、白金やニッケルを触媒とした水素化などの方法により行われる。アミドの還元は、水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤を用いて行われる。

(2)ニトロ化合物の還元
  RNO2+6H―→RNH2+2H2O
芳香族第一級アミンは主としてこの方法でつくられ、実験室ではスズ(または塩化スズ(Ⅱ))と塩酸を用いて還元する方法がとられる。ニトロ化合物から第一級アミンへの還元の中間体であるニトロソ化合物アゾ化合物などの還元によっても第一級アミンが得られる。

(3)ハロゲン化アルキルにアンモニアを作用させる。


この方法では上の式でみるように第一級、第二級、第三級アミンおよび第四級アンモニウム塩の混合物となるため、第一級アミンを選択的に合成する方法としては適当ではない。

(4)フタルイミドカリウムにハロゲン化アルキルを作用させ、生成物を加水分解する(ガブリエル反応)。


(5)酸アミドに臭素と水酸化アルカリを作用させる(ホフマン反応)。この反応は次の式に示すようにイソシアナートイソシアン酸エステル)を経由する転位反応である。


酸塩化物(酸ハロゲン化物)にアジ化ナトリウムを作用させてできる酸アジドを熱分解する方法や、カルボン酸にアジ化水素酸を作用させる方法によっても第一級アミンが得られ、いずれもイソシアナートを経由する。

 このほかに、ケトン、アルデヒドにアンモニアとギ酸を作用させて、還元とアミノ化を同時に行って第一級アミンを得る方法も知られている。

[山本 学]

第二級、第三級アミン

第二級アミン、第三級アミンは、シッフ塩基N-アルキルアミドの還元や、第一級、第二級アミンのアルキル化などの方法により調製される。後者では目的とするアルキル化生成物だけを選択的に合成することが困難な場合もある(第一級アミンの製法(3)参照)。

[山本 学]

物理的性質

脂肪族アミンは、低位のものはアンモニア臭のある気体ないし液体であるが、高位のものはほぼ無臭の固体である。芳香族アミンは一般に水に不溶で特有のにおいをもつ。

[山本 学]

化学的性質

アミンは塩基性を示し、次式の例のように酸と反応して塩をつくる。


脂肪族アミンは一般にアンモニアよりやや強い塩基性を示すが、芳香族アミンの塩基性は低い。塩酸、硫酸などの強い無機酸との塩は一般に水溶性で、水酸化アルカリを加えるとアミンを遊離する。亜硝酸との反応は第一級、第二級、第三級アミンで異なる挙動を示す。芳香族第一級アミンは低温でジアゾニウム塩を生成する。高温ではこれが分解してフェノールとなる。脂肪族第一級アミンではアルコールを生ずる。



第二級アミンはニトロソアミンを生成する。この反応で生成するニトロソアミンは発癌(はつがん)性をもつので、食品添加物として用いられている亜硝酸塩が有害であるとの考えがある。


第三級アミンは常温では亜硝酸と反応しない。

 第一級、第二級アミンは無水酢酸あるいは塩化アセチルによりアセチル化されアミドを生成するが、第三級アミンは反応しない。塩化ベンゼンスルホニルとの反応でも第一級および第二級アミンの場合はベンゼンスルホンアミドを生成するが、第三級アミンは反応しない。第一級アミンからのスルホンアミドはアルカリに溶けるのに対し、第二級アミンからのものはアルカリに不溶であるので区別できる。

 第一級アミンにクロロホルムおよびアルカリを反応させると、悪臭のあるイソニトリルを生成する。イソニトリルの別名をカルビルアミンというので、この反応はカルビルアミン反応とよばれ、第一級アミンの検出法として用いられる。


第三級アミンはハロゲン化アルキルと反応して第四級アンモニウム塩を生じる。


[山本 学]

構造

アミンの窒素原子は平面構造ではなく三角錐(さんかくすい)構造をとっている。言い換えると、正四面体の中心に位置する窒素原子から3本の結合が3個の頂点に向かい、残りの頂点には孤立電子対が位置を占めている。アミンの塩基性はこの孤立電子対に由来している。三角錐構造は速やかに反転しているので、すべての置換基が異なる種類である第三級アミンでも、炭素の四面体の場合のように光学対掌体に分割することは一般に不可能である。

[山本 学]

『小林啓二著『有機化学』改訂第10版(1997・裳華房)』『山川浩司・星野修・久保陽徳編著、久留正雄・北原嘉泰・西谷潔・原博著『有機化学』改訂第3版(1999・南江堂)』『大嶌幸一郎著『基礎有機化学』(2000・東京化学同人)』『大木道則著『入門 有機化学』(2001・朝倉書店)』『J・マクマリー著、菅原二三男監訳『マクマリー・生物有機化学1 有機化学編』(2002・丸善)』『R・J・ウーレット著、高橋知義・堀内昭・橋元親夫・須田憲男訳『ウーレット 有機化学』(2002・化学同人)』『伊与田正彦編著、山村公明・森田昇・吉田正人著『基礎からの有機化学』(2003・朝倉書店)』


アミン(Idi Dada Amin)
あみん
Idi Dada Amin
(1923/1928―2003)

ウガンダの軍人、政治家。北西部の西ナイル・アルアに生まれる。生年については諸説あり明確ではない。1946年キングス・アフリカン・ライフルズ第四部隊に入隊、1961年陸軍中尉に昇進した。ウガンダ独立(1962)後、大佐(1964)、総司令官(1968)に昇進したが、コンゴ反乱軍への援助に連座し左遷された。1971年1月大統領オボテの外遊中にクーデターを起こし成功。経済面でのウガンダ化政策をとり、同国経済を支配する5万人のインド人を追放した(1972)。また、反対派の大量殺戮(さつりく)を行うなど独裁者となった。1976年終身大統領に就任。1978年10月隣国タンザニアに侵攻したが、タンザニア軍と国内の反対派「ウガンダ国民解放戦線」の反抗によって敗れ、1979年サウジアラビアに亡命した。1998年北部ウガンダに武器を密輸しようとし発覚、サウジアラビア政府はアミンをメッカに軟禁した。2003年サウジアラビアのジッダにて死去。

[林 晃史]

『ヘンリー・キエンバ著、青木栄一訳『大虐殺――アミンの恐るべき素顔』(1977・二見書房)』『エーリッヒ・ヴィーデマン著、芳仲和夫訳『アミン大統領』(1977・朝日イブニングニュース社)』『ダン・ウッディング、レイ・バーネット著、島田礼子訳『独裁者アミン――ウガンダの大虐殺』(1981・いのちのことば社)』『Martin JamisonIdi Amin and Uganda ; an annotated bibliography(1992, Greenwood Press, Westport,Conn.)』


アミン(Samir Amin)
あみん
Samir Amin
(1931― )

エジプト出身の経済学者。A・G・フランクとともに新従属学派の代表的理論家として知られている。パリで経済学を学んだのち、1957年よりエジプト政府の開発経済機関に勤務したが、1960年ナセル政権によりエジプトを追われ、マリ共和国政府の経済顧問、フランス、セネガルの諸大学教授を経て、1970年からセネガルのダカールにある国連アフリカ経済開発・経済計画研究所所長。1980年以降同研究所を離れ、同じくダカールにあるNGO(非政府組織)「第三世界フォーラム」の代表となり、1996年からは世界を代表する政・官・財界のトップたちによるグローバル化、IT(情報技術)化の潮流に沿った国際協調を目ざす「世界経済フォーラム」(スイス・ダボス)の対抗会議である「オルターナティブ世界フォーラム」(「第三世界フォーラム」主催)の議長も務めている。問題関心の重点を、第三世界(とくにアラブとアフリカ)の具体的分析から、世界的規模での資本蓄積の理論へ、さらに唯物史観の再解釈や民族問題に移してきているが、その間、一貫して伝統的社会科学、経済学の西欧中心主義を批判し、自らは、第三世界に主軸を置いた政治経済理論の再構築を図っている。主著の『世界的規模における資本蓄積』(1970)のほか、『不均等発展』(1973)、『帝国主義と不均等発展』(1976)、『価値法則と史的唯物論』(1977)、『デリンキング――多中心的世界に向けて』(1985)などがよく知られている。

[本多健吉]

『野口祐他訳『世界的規模における資本蓄積』全3冊(1979~1981・柘植書房)』『北沢正雄訳『帝国主義と不均等発展』(1981・第三書館)』『西川潤訳『不均等発展――周辺資本主義の社会構成体に関する試論』(1983・東洋経済新報社)』『北沢正雄訳『価値法則と史的唯物論』(1983・亜紀書房)』『渡辺政治経済研究所編、脇浜義明監訳『オルタナティブな社会主義へ――スイージーとアミン、未来を語る』(1990・新泉社)』


アミン(Hafīzullah Amīn)
あみん
Hafīzullah Amīn
(1921/1929―1979)

アフガニスタンの政治家。1978年4月の社会主義革命の立役者の一人。カブール県パグマーン、パシュトゥン人ギルザイ部族の中流家庭出身。元高等学校長。革命後、外相、首相、革命評議会議長(大統領)を歴任。政敵に対する大規模な粛清を行い、革命を急進的に推進しようとした。民族主義者でもあり、1979年12月ソ連の支援を受けたカールマルによるクーデターで殺害された。

[深町宏樹]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アミン」の意味・わかりやすい解説

アミン
Amin (Dada), Idi

[生]1925頃.コボコ
[没]2003.8.16. サウジアラビア
ウガンダの軍人,政治家。第2次世界大戦中,イギリスの植民地軍の一員としてビルマ戦線に従軍,のちマウマウの反乱鎮圧のためケニアにも出動。 1950年から約 10年間ウガンダのボクシング・ヘビー級チャンピオンのタイトルを保持していた。 1964年大佐に昇進,以後陸・空軍の副司令官として軍の実力者となる。 1966年2~5月の政変では A. M.オボテ側に荷担,ムテサ2世を追放し,同 1966年 10月軍司令官に任命された。 1971年1月シンガポールのイギリス連邦首脳会議に出席中のオボテ大統領をクーデターにより追放し政権を奪取,翌2月大統領に就任。 1972年8月アジア人追放事件で世界に波紋を投げかけた。また,同 1972年9月にはタンザニアに亡命中のオボテ前大統領の手兵約 1000人が越境,侵攻したことからタンザニアと,1975年6月には D.ヒルズ氏事件でイギリスと,1976年6月のエンテベ空港事件では人質を救出したイスラエル機が帰途ナイロビ空港に立ち寄ったという理由でケニアと,それぞれ紛争を起こした。国内では強権政治をしき,反対派を弾圧したため,国民の不満は徐々に高まった。 1975年7月末~8月初めにカンパラで開かれた第 12回アフリカ統一機構 OAU首脳会議では議長を務めた。しかし 1978年 10月タンザニア・亡命ウガンダ人連合軍が侵攻,1979年4月首都が陥落し,アミンはサウジアラビアへ逃亡した。

アミン
amine

アンモニアの水素原子が炭化水素残基で置換された形の化合物の総称。置換される水素原子の数により,第一アミン RNH2 ,第二アミン RR'NH ,第三アミン RR'R''N の3種がある。炭化水素残基がすべてアルキル基 (またはその置換体) であるものは脂肪族アミンと呼ばれ,その全部または一部が芳香族炭化水素残基 (またはその置換体) であるものは芳香族アミンと呼ばれる。一般にアンモニアに類似した性質をもち,塩基性で,炭化水素残基が脂肪族で低位のものは,アンモニアに似た臭気のある無色気体または液体である。水によく溶ける。動植物が腐敗した際に生じ,古い魚肉の悪臭の原因となる。芳香族アミンはコールタールの中に含まれる。

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