遷移元素(読み)センイゲンソ(英語表記)transition elements

デジタル大辞泉 「遷移元素」の意味・読み・例文・類語

せんい‐げんそ【遷移元素】

元素の分類の一。周期表中、3(ⅢA)~11(IB)族元素の総称。12(ⅡB)族元素を含めることもある。遷移金属ともいう。

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精選版 日本国語大辞典 「遷移元素」の意味・読み・例文・類語

せんい‐げんそ【遷移元素】

  1. 〘 名詞 〙 周期表上の元素の分類名の一つ。今日では長周期型周期表の3~11族に属する元素をさす。典型元素に対する語。

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改訂新版 世界大百科事典 「遷移元素」の意味・わかりやすい解説

遷移元素 (せんいげんそ)
transition elements

長周期型周期表の第ⅢA族から第ⅡB族にわたる元素の総称。すべて金属元素であるから,遷移金属とも呼ぶ。これらのうち,第4周期のスカンジウムScから銅Cuまで,第5周期のイットリウムYから銀Agまでの各9個の元素を,それぞれ第一遷移元素,第二遷移元素(あるいは第一遷移系列,第二遷移系列)と呼び,第6周期のランタノイドおよびそれに続くハフニウムHfから金Auまでの計23個の元素を第三遷移元素(第三遷移系列)と呼ぶ。ただ,第一遷移元素では銅の次の亜鉛Znまで,第二遷移元素では銀の次のカドミウムCdまで,第三遷移元素では金の次の水銀Hgまでを含めていうこともある。またさらに,第7周期のアクチノイドおよびそれに続く原子番号104以降の元素を第四遷移元素(第四遷移系列)と呼ぶこともある。なお,これらのうちのランタノイドとアクチノイドの諸元素をあわせて内部遷移元素と呼び,その他の元素から区別する。化学者がふつう遷移元素というときは内部遷移元素以外のものをさす場合が多い。

遷移元素という語は,古くは周期表の第Ⅷ族,すなわち鉄Fe,コバルトCo,ニッケルNiのいわゆる鉄族元素と,その下に位置する6個の白金族元素をさすものであった。すなわちD.I.メンデレーエフが最初に短周期型周期表を作ったとき,これらの元素が他の族の元素と異なって横に3個ずつよく似ており,種々の特異性があることから,これらを第4周期以下の一つの周期の中で最初のⅦ族元素(現在のⅦ A族元素)から次のⅠ族元素(現在のⅠB族元素)に移行する間のつなぎとなる過渡的あるいは遷移的transitionalな元素と考えたことに由来する。しかし周期律と原子構造との関係が明らかにされた現在では,遷移元素の定義は最初より大幅に拡大され,長周期型周期表の左端にある陽性(金属性)の強いⅠA族・ⅡA族元素(最外部にs電子をもつs-ブロック元素)と,右端にあって陽性のより弱い金属元素や,さらに陰性の非金属元素,化学反応性に乏しい0族元素などが高度の規則性をもって配列しているⅢB族以降の元素(最外部にp電子をもつp-ブロック元素)との橋わたしとなっている長大な一群の元素をさすようになった。このうち,ふつう遷移元素と呼ばれるもの(内部遷移元素)以外はそれぞれ最外部に4s,5s,6sの電子をもっているが,その一つ内側の3d,4dおよび5dの軌道上の電子が,原子番号とともに規則的に増加していく過程の元素であって,それゆえd-ブロック元素(またはd-遷移元素)と呼ばれる。一方,内部遷移元素,すなわちランタノイドおよびアクチノイドの諸元素は,原子のずっと内側にある4fおよび5fの軌道上の電子が増加していく過程の元素で,f-ブロック元素(またはf-遷移元素)とも呼ばれる。第一遷移元素を例にとれば,表に示すように,その直前の元素カルシウムCaにはアルゴンArと同じ電子配列をした原子の芯があり,そのまわりを2個の4s電子がとりかこんでいる(これを[Ar]4s2のように記す)。ところが次のスカンジウムScでは,4s軌道のすぐ内側にあるのに,電子雲の形の関係でそれよりわずかにエネルギーの高い3d軌道に電子が入りはじめ([Ar]3d14s2),以下3d電子の数はだんだんと増して亜鉛Zn([Ar]3d104s2)に至る。ここで3d軌道は満員となるので,次のガリウムGaでは最外部の電子は4p電子となり([Ar]3d104s24p1),p-ブロック元素の仲間に入るようになる。他の遷移元素でも同様な現象が起こる。ただし,これら元素の最外部のs軌道と,一つ内側のd軌道のエネルギー差は小さいので,ときにはs軌道に入るべき電子がd軌道のほうにとりこまれ,例外的な配列になることもある。たとえば,クロムCr,銅Cuではそれぞれ3d44s2,3d94s2でなく3d54s1,3d104s1,またパラジウムPdでは4d85s2でなく4d10が最外部の電子配列になる。

上に述べたようにsとdの軌道のエネルギーが近いので,これらの金属がイオン化する際に,電子はときには最外部のs軌道から,ときにはs,d両軌道から失われ,そのため一つの元素から種々の電荷をもったイオンが生じる(たとえばFe2⁺とFe3⁺,Cu⁺とCu2⁺)。またd軌道が完全に電子を失ったSc3⁺やTi4⁺,あるいは電子で完全に満員になっているAg⁺やZn2⁺のようなイオン以外のイオンは一般に常磁性を示し,また可視光線を吸収して電子がd軌道の間を飛び移るので,着色した化合物をつくる。このようにs-およびp-ブロック元素(典型元素)にない多くの特異な性質を示す遷移元素は,それぞれ個性に富む挙動をする一方,また隣接した元素どうし(たとえば上記の鉄Fe,コバルトCo,ニッケルNiや,バナジウムV,クロムCr,マンガンMnなど)の間にもしばしばかなりな類似性があり,それらの電気陰性度も互いに近い。また,しばしば両性の現象を示す。重金属,貴金属として実用上重要なものが多い反面,産出量の少ない希元素や,製造困難なものも多い。遷移元素の化学の解明は,現在の無機化学の中心的な課題である。
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化学辞典 第2版 「遷移元素」の解説

遷移元素
センイゲンソ
transition elements

IUPACの定義によれば,不完全に満たされたd亜殻をもつ元素,またはそのようなd亜殻をもつ陽イオンを生じる元素.長周期表の3族から11族元素.厳密には21番元素のスカンジウムScから29番の銅Cu(第一遷移系列),39番のイットリウムYから47番の銀Ag(第二遷移系列),57番のランタンLa,72番のハフニウムHfから79番の金Au(第三遷移系列),89番アクチニウムAc,103番のローレンシウムLrから111番のレントゲニウムRg(第四遷移系列)をいう.性質の類似から12族の亜鉛,カドミウム,水銀,(112番コペルニシウム)を加えることもある.f亜殻が不完全な57番ランタンLaから71番ルテチウムLu(ランタノイド),および89番のアクチニウムAcから103番のローレンシウムLr(アクチノイド)を内部遷移元素(inner transition elements)という.IUPACの無機化合物命名法(1990年)はランタノイド,アクチノイドも遷移元素に含まれるとしている.遷移元素という名称の起こりは,D.I. Mendeleev(メンデレーエフ)が周期表によって元素を分類したとき,陰性の強いハロゲン(Ⅶ族)と陽性の強いアルカリ金属(Ⅰ族)との間に,鉄族および白金族元素が第Ⅷ族元素として過渡的に介在していたことにちなんでいる.遷移元素の単体はいずれも重金属で,遷移金属ともよばれる.同一系列(同一周期)に属する元素のイオン化エネルギー,原子半径などの変化は,典型元素に比べて緩やかで,互いの性質が似通っている.この傾向は内部遷移元素でいちじるしく,したがって相互分離が困難であった.鉄,銅をはじめ,ニッケル,クロム,チタン,モリブデン,タングステンなど金属材料として重要なものが多く,相互に合金をつくることによって多様な物性を発揮する.遷移元素の化合物は不完全な電子殻をもっているため,常磁性を示すものが多い.また,錯体を形成しやすく,有色のものが多い.遷移元素は同一元素が種々の酸化状態をとるため,酸化剤,還元剤として重要なものも少なくない(KMnO4,K2Cr2O7,FeSO4,TiCl3など).また,酸化数の高いものは酸性,低いものは塩基性を示し,中間の酸化状態のものは両性を示す傾向がみられる.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「遷移元素」の意味・わかりやすい解説

遷移元素
せんいげんそ
transition element

原子の電子配置で、最外部のd殻あるいはf殻が不飽和であるか、不飽和なイオンをつくるような元素の総称。転移元素ともいう。典型元素に対する語。遷移元素のうちランタノイド(原子番号58~71)およびアクチノイド(同90~103)に属する元素は、最外部の不完全d殻あるいは内部の不完全f殻をもつ元素で、これを内部遷移元素とよんで区別することもある。またd殻が完全に詰まった電子配置しかとらない元素であるが、原子番号30の亜鉛、48のカドミウム、80の水銀は、それぞれの前にある系列の元素との類似性から遷移元素に含めることもある。

 ロシアのメンデレーエフが初め周期表をつくったときは、短周期型で第Ⅷ族として性質のよく似た鉄をはじめとする3元素ずつ3組の元素を別に分類し、これらはきわめて陰性なハロゲンを含む第Ⅶ族から、きわめて陽性なアルカリ金属を含む第Ⅰ族への過渡的な元素という意味で、遷移元素とよんだ。しかしその後、遷移元素の化学的性質の特徴や、それが電子構造に由来することから、現在のように拡張して分類されることになった。

 遷移元素はいずれも金属なので、遷移金属ともよばれる。その多くは多種類の安定な原子価を有し、化合物が着色しているものが多く、常磁性であるものが多い。

[中原勝儼]

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百科事典マイペディア 「遷移元素」の意味・わかりやすい解説

遷移元素【せんいげんそ】

長周期型周期表中,一つの周期で左側の典型元素から右側の典型元素へ移る途中の位置にある元素。すべて金属元素で,遷移金属とも。原子番号が増えてゆくあいだ,類似した元素のまま少しずつ性質が推移してゆく。これは,原子の電子構造からいってd電子またはf電子がつまっていく過程にあるためと考えられる。普通,21番のSc〜30番のZn,39番のY〜48番のCd,57番のLa〜80番のHg,89番のAc〜103番のLrまでの元素すべてをいう。ただし,Zn,Cd,Hgを除くこともある。初めメンデレーエフが周期表を作ったときに第VIII族としてとりあげたよく似たFe・Co・Ni,Ru・Rh・Pd,Os・Ir・Ptの3組が,きわめて陰性なハロゲンを含む第VII族から,きわめて陽性なアルカリ金属を含む第I族への過渡的な元素であるとして初めて命名したもの。
→関連項目格子欠陥常磁性超硬合金典型元素

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遷移元素」の意味・わかりやすい解説

遷移元素
せんいげんそ
transition element

不完全なdまたはf殻をもつ陽イオンを生じる元素群。この元素群には,スカンジウムから銅まで,イットリウムから銀まで,ランタンから金まで,アクチニウムから 111番元素までの4系列がある。ランタンから金までの系列のなかのセリウムからルテチウムまでは,特にランタニド元素 (希土類元素) といわれ,またアクチニウムから 111番元素のなかのトリウムからローレンシウムまではアクチニド元素といわれる。これらはいずれも不完全f殻をもち,f殻が順次満たされていく系列を構成するので,特に内遷移元素ということがある。ランタンとアクチニウムを内遷移元素に入れることもある。遷移元素はすべて金属元素で,単体は硬く,強靭で,融点,沸点が高く,多くは常磁性を示し,合金をつくりやすい。また錯体を形成しやすく,ほとんどが有色である。

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栄養・生化学辞典 「遷移元素」の解説

遷移元素

 遷移金属ともいう.不完全なdまたはf亜殻をもつ元素と定義される.原子番号21のスカンジウムから29の銅まで,39のイットリウムから47の銀まで,72のハフニウムから79の金まで,などが遷移元素.

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