日本大百科全書(ニッポニカ) 「イネクロカメムシ」の意味・わかりやすい解説
イネクロカメムシ
いねくろかめむし / 稲黒亀虫
稲黒椿象
black rice bug
[学] Scotinophara lurida
昆虫綱半翅(はんし)目カメムシ科に属する昆虫。イネを加害する著名な害虫なので、クニクズシ(石川県)、ゼントクチュウ(福井県)、ガイタ(兵庫県、岡山県)、クロフ(九州全県)など多くの地方名がある。和名を略してクロチン(黒椿)とよぶことも多い。本州以南の日本各地、および朝鮮半島、中国、台湾、東南アジアに広く分布する。体長8~10ミリメートルで、体は一様に光沢の少ない黒色を帯びる。小楯板(しょうじゅんばん)は大きくて舌形に伸び、腹端まで達する。年1回発生して成虫で越冬する。6月ごろから水田に飛来し、6月下旬から8月中旬に、イネの葉鞘(ようしょう)や葉裏に14個前後の卵を2列に並べて産み付ける。卵は約1週間で孵化(ふか)する。幼虫が成虫になるまでは、5回の脱皮を経て約1か月を要する。幼虫は小楯板に臭腺(しゅうせん)の開孔(かいこう)部から、成虫は後胸にある開孔部から臭い液を出すので、ヘクサムシともよばれて嫌われる。
ヒエやマコモにも多少寄生するが、イネを好み、イネの株元に寄生して葉鞘や葉から液を吸うため、イネの生育が阻害される。また、出穂期には穂に集まって成熟を妨げる。かつては北陸地方や佐渡地方、山陽地方で大発生し、収穫が皆無の記録もある。防除にはスミチオンなどの液剤散布が行われる。
[立川周二]