いぶせし

精選版 日本国語大辞典 「いぶせし」の意味・読み・例文・類語

いぶせ・し

〘形ク〙
① 心がはればれとしないで、うっとうしい。気がふさぐ。気づまりだ。
万葉(8C後)一二・二九九一「たらちねの母がかふ蚕(こ)の眉(まよ)ごもり馬声蜂音石花蜘蟵(いぶせくも)あるか妹にあはずして」
② 気がかりでおぼつかない。心にかかる。気にかかる。
源氏(1001‐14頃)蜻蛉「いかで、いとにはかなりける事にかはとのみ、いぶせければ」
③ (対象となる人や事物が)いとわしくていやだ。不快だ。不愉快だ。
※源氏(1001‐14頃)宿木「いぶせくなどはあらで、いとらうらうじく恥づかしげなる気色も添ひて」
④ きたならしい。むさくるしい。貧しく、みすぼらしい
平家(13C前)一「いぶせき事も忘られて、あさましげなるかたはうどにまじはって」
気味がわるい。恐ろしい。恐ろしく、危険にみえる。
※虚堂録臆断(1534)七「怒濤がいぶせいほどに不看也」
[語誌](1)中世近世には口語形「いぶせい」も見られる。
(2)「何らかの障害があって、対象の様子が不分明なところから来る不安感・不快感」を示すのが原義と見られる。上代においては「おほほし」と類義的に用いられる。
(3)中世以降「きたならしい、むさくるしい」また「気味がわるい、恐ろしい」の意に用いられるが、現在では方言として残存するのみである。
いぶせ‐が・る
〘自ラ五(四)〙
いぶせ‐げ
〘形動〙
いぶせ‐さ
〘名〙

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