日本大百科全書(ニッポニカ) 「イワンのばか」の意味・わかりやすい解説
イワンのばか
いわんのばか
Сказка об Иване‐дураке/Skazka ob Ivane-durake
ロシアの作家L・N・トルストイのもっとも有名な創作民話。1885年作。正式には『イワンの馬鹿(ばか)とその2人の兄弟、軍人のセミョーンと太鼓腹のタラースと唖(おし)の妹マラーニヤと、老悪魔と三匹の小悪魔の話』。基本的なロシア民話ではイワンは働き者の2人の兄たちと違い「ものぐさ太郎」だが、最後に幸運を手中にする。このタイプは農奴制的労働の不生産性に対する民衆の健全な判断力の表れであろうが、この筋書きをトルストイは鋭く転回させ、イワンを勤勉な地主の三男に仕立て、長兄の収奪的なミリタリズム、次兄の独占資本主義的な商行為を批判する。それと同時に、貨幣の要らない無政府的原始共同体の幻想をも理想化した。
[法橋和彦]
『中村白葉訳『イワンのばか他八編』(岩波文庫)』▽『金子幸彦訳『イワンのばか』(岩波少年文庫)』