イワン(読み)いわん(英語表記)Иван Ⅰ/Ivan Ⅰ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イワン」の意味・わかりやすい解説

イワン(4世)
いわん
Иван Ⅳ/Ivan Ⅳ
(1530―1584)

ロシアの大公(在位1533~1584)にしてツァーリ(在位1547~1584)。モスクワ大公ワシリー3世Vasilii Ⅲ(1479―1533、在位1505~1533)の子として生まれ、3歳にして父を、8歳で母を失い、孤児となった。宮廷では大貴族の権力闘争が渦巻き、彼は冷遇された。16歳で即位式をあげると正式にツァーリの称号をとり、登用した士族アダーシェフАлексей Фёдорович Адашев/Aleksey Fyodorovich Adashev(?―1561)を長とする「選抜会議」に拠(よ)って改革に着手した。

 1549年、初めてゼムスキー・ソボール(全国会議)を招集し、法典編纂(へんさん)(1550)をはじめ、中央行政機関の整備、地方行政への自治的要素の導入、軍制の改革に努め、また修道院領を制限するなど教会改革にもあたった。同時に農奴の移転制限などにより、士族への労働力の確保を図った。1560年代に入ると、妻の死、大貴族の反抗、寵臣(ちょうしん)クルプスキーАндрей Михайлович Курбский/Andrey Mihaylovich Kurbskiy(1528―1583)侯の逃亡などが原因となって、恐怖政治を敷き、皇帝直轄領とそれに付属する行政、軍隊などの諸制度を特設した「オプリチニナ制」(1565~1572)によって大貴族などを処刑、所領を没収して迫害した。この恐怖政治により、大貴族などの反集権的な封建勢力は大打撃を受けて没落、彼はこのためグローズヌイГрозный/Groznïy(雷帝)とあだ名された。

 対外的には、カザンおよびアストラハンの2ハン国を併合(前者は1552年、後者は1556年)して東方経略の基礎をつくり、その治世中にシベリアまで勢力圏を広めた。他方、バルト海への進出を意図してリボニア騎士団と長期多難なリボニア戦争(1558~1583)を始めたが、騎士団の背後にあったリトワ大公国、ポーランドスウェーデンの介入を被り、ロシア軍は苦戦した。結局イワンはポーランドおよびリトワ(1582)と、ついでスウェーデン(1583)と和したが、バルト海への進出には失敗した。1584年3月18日、53歳で死去

 彼は残忍な性格であった(晩年自分長子を口論して打ち殺すようなこともあった)が、高度の政治力をもち、また博識で文才に長じていた。その統治の功罪については歴史家の間に論争がある。

[伊藤幸男 2022年5月20日]

『H・トロワイヤ著、工藤庸子訳『イヴァン雷帝』(1983・中央公論社)』



イワン(3世)
いわん
Иван Ⅲ/Ivan Ⅲ
(1440―1505)

モスクワ大公(在位1462~1505)。「大帝」ともよばれる。ワシリー2世Vasilii Ⅱ(1415―1462、在位1425~1462)の長男として生まれる。治世の間にノブゴロド(1478)をはじめ、ロストフ、ヤロスラブリ、トベリ、チェルニゴフなどの諸公国をあわせて、ロシア国土の統一を成就した。優れた軍略によってタタール・ハン軍をウグラ川河畔に破り、タタールの支配に終止符を打った(1480)。ビザンティン帝国最後の皇帝コンスタンティノス11世の姪(めい)ソフィアZoe Sophia(1503没)との結婚(1472)を通じてビザンティン的な儀式や君主観を受容し、初めて「ツァーリ」の称号を用い、独立国君主たる権威を示した。士族を登用し、行政機構を整えた。農民の移動を秋の一定時期に限定する条項を含む全国的な法典を編纂(へんさん)した(1497)。

[伊藤幸男 2022年5月20日]


イワン(1世)
いわん
Иван Ⅰ/Ivan Ⅰ
(?―1340)

モスクワ公(在位1325~40)、ウラジーミル大公(在位1328~40)。狡猾(こうかつ)にして賢明な大政治家。キプチャク・ハン国に従順な態度をとり、その援助を利用して大公位を得たのみならず、周辺の領域拡張に努め、府主教座をモスクワに移すなど、モスクワ公国の勢力拡大に成功した。ハン国より委任された徴税権を利用して集めた巨富のゆえに「カリタ」Kalita(金袋の意)とよばれる。

[伊藤幸男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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