改訂新版 世界大百科事典 「インクナブラ」の意味・わかりやすい解説
インクナブラ
incunabula
ラテン語で〈おむつ〉〈出生地〉〈初め〉の意。そこから1500年以前の西洋の印刷物の,いわば発生期のものを総称するようになった。日本ではインキュナブラと呼ぶことが多い。一枚刷り木版画は14世紀末からつくられ,1500年ごろまでにおよそ1万点現存する。その大部分は宗教的主題であり,世俗的なカルタ(遊戯札)は15世紀中期以後に現れる。その技法はおもに凸版の板目木版であり,15世紀中期からクリブレ版と呼ばれる金属凸版も一時的に現れ,また同じころ凹版の彫刻銅版が現れて,これが以後の西洋版画の主流を形成することになる。印刷本には木版本と活字本とがある。木版本は15世紀前半からドイツとネーデルラント地方でつくられはじめる。初期の手写本の余白に版画を貼ったり,直接刷り込んだりした本を別とすれば,文字ページや絵を版木に彫って紙の片面に印刷するもの(ヨハネの黙示録,貧者の聖書,雅歌,往生術(アルス・モリエンディ)など約40種)と,1460年ごろからの両面印刷のものがあり,後者は15世紀には活字本と並行してつくられ続けた。グーテンベルク以後,金属活字本が盛んになって,その世紀の末ごろにはヨーロッパ各地に1000軒をこえる印刷所が設けられ,4万種1200万冊にのぼる本が印刷されたが,各国の図書館に稀覯本(きこうぼん)として現存するものはその一部にすぎない。
執筆者:坂本 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報