改訂新版 世界大百科事典 「おむつ」の意味・わかりやすい解説
おむつ
diaper
おしめ(御湿)ともいう。おしめは〈湿し〉の女性用語で,排尿便を意志でコントロールできない乳幼児,あるいは自力で用が足せない病人,老人の大小便の始末のために,腰部,股間にあてる布や紙ナプキンをさしている。
おむつは〈むつき(襁褓)〉に由来する。褓は体をくるむ布,襁はそれをしばるひもを意味し,もともと,生まれたばかりの赤子の体をくるむ布をさしていた。むつきには大小2種があり,大きいむつきで体全体を,小さいむつきで股をつつんだが,その後,日本では赤子の体を布でくるむ習慣が消え,股間にあてる布だけが大小便の始末の目的で残った。
日本ではおもに木綿の布地を輪形・長方形に縫ったものが,欧米では四角い布を三角形や洋だこ形に折ったものが用いられてきたが,これは織機の構造が違い,織られる布のサイズが日本と欧米で異なっていたからである。また日本では着古した浴衣地が用いられていたが,これは,古い布地の柔らかさ,肌ざわりのよさもさることながら,おとなの身につけた布のもつ力で,それをまとった赤子を災いから守るという古い信仰に由来するものと思われる。
おむつ以外に乳幼児の大小便を始末する方法として,未開の種族では,早くからしつけをして戸外で排尿便させるとか,おむつ代りに柔らかい草,木の葉,藻,砂,灰などを用いるなどしている。日本でも,昭和初期までの農村(とくに東北地方)では,つぐらの中に,わら,わら灰,海藻,砂,ぼろ布などを入れ,それに大小便を吸いとらせるくふうをしていた。
おむつの材料
柔らかく,吸水性があり,便の性状の観察がしやすく,洗濯に耐えることが必要なので,白地の木綿が用いられる。輪形・長方形のおむつのほか,第2次大戦後は欧米型の四角いおむつも普及し,また伸縮性・吸水性などを考慮して,綾織など織り方にもさまざまなものがある。おむつの表面に重ね,水分を透過させて,肌をぬらさないようにする目的で,ライナーと呼ばれる紙や不織布も市販されている。さらに,ライナー,吸湿のための紙パルプ,もれを防ぐためのビニルシートを組み合わせた紙おむつも,種々市販されている。経済性を考えれば,家庭でくりかえし洗濯できる布おむつがよく,旅行,夜間就眠時,梅雨期など布おむつの使いにくいときは,紙おむつが便利であろう。
おむつのあて方
腰巻のように下肢全体をくるんでしまう巻きおむつは最近ではみられなくなった。昭和中期,第2次大戦後に普及したパンツ形のあて方が多い。しかし股間にだけ布をあて,腰まわりをくるまない方法(股おむつ)が,先天性股関節脱臼の生後成立を予防するために普及しつつある。乳児の体をおおう部分が少なく,下肢の運動を制限しないのでよい方法である。股おむつを固定するためのおむつカバーも市販されている。
おむつカバー
おむつカバーは,おむつの外側にあて,大小便がもれて衣類や布団を汚さないようにし,またおむつを固定する目的で用いられる。おむつカバーの目的からいって,まず防水性が求められるが,このことは反面,むれやすさ,ひいてはおむつかぶれの発生につながる。そこで,もれないこと,むれないことという相反する二つの条件を満足させるよう,いろいろな形・材質のおむつカバーが考案され,市販されている。通気性の点からは羊毛製のものが推奨されるが,最近では,化学繊維にも通気性・防水性に優れたものができている。ビニル製のものも,細かいあなや細いみぞをつけて通気性を保つくふうがこらされている。寒暑,昼夜などの状況に応じて使いわけるのがよい。また先天性股関節脱臼の予防のためにも,下肢の運動の自由をさまたげないものを選ぶのも,たいせつな選択の条件である。
→育児
執筆者:澤田 啓司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報