内科学 第10版 の解説
ウエストナイル熱・ウエストナイル脳炎(フラビウイルス)
ウエストナイル熱(West Nile fever)は従来東半球において小流行が報告される感染症であったが,1990年代から世界各地で比較的大きな流行が起こるようになった(図4-4-9).
ウエストナイルウイルスは自然界においては蚊-鳥-蚊の感染環で維持されている.ヒトは終末宿主であり,感染したヒトを吸血した蚊が感染することはない.通常ヒトからヒトへの感染はないが,輸血による感染,臓器移植による感染,母乳による感染,経胎盤感染,が報告されている.ウエストナイルウイルス感染者の約20%が発症するが,症状は多様である.
a)ウエストナイル熱:ウエストナイルウイルス感染により症状を示す場合,多くは急性熱性疾患であるウエストナイル熱の病態を示す.潜伏期間は2~14日(多くは2~6日)であり発熱で発症し,頭痛,背部痛,筋肉痛,食欲不振,悪心,リンパ節腫脹などの症状が出現する.また胸部,背部,上肢に発疹が認められる.これらの急性症状は3~6日で消失し,通常後遺症なく回復する.しかし,その後倦怠感が持続することもある. b)ウエストナイル脳炎(West Nile encephalitis):感染者の約150人に1人が重篤な脳炎,髄膜炎を発症する.脳炎患者は頭痛,高熱,方向感覚の欠如,麻痺,昏睡,錐体外路症状,痙攣などの症状を示す.さらに,消化器症状,視神経炎を伴うことがある.髄膜炎患者は高熱,頭痛,項部硬直などの症状を示すが,意識は清明である.脳炎,髄膜炎は高齢者に多い.致死率は脳炎患者の約10%である.
c)脊髄,末梢神経症状:脳炎,髄膜炎症状を示す患者において,知覚障害を示さず両側非対称の筋力低下,腱反射の消失を特徴とする弛緩性麻痺の発生が報告されている.脊髄前角細胞の破壊,障害が主たる原因と考えられている.しかし,症例によっては腱反射が維持され,知覚障害を伴う多発性神経炎様の症状を示すことがある.脊髄,末梢神経症状は脳炎などの中枢神経症状を示さない感染者にもみられることが報告されている.[倉根一郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報