リンパ節腫脹

内科学 第10版 「リンパ節腫脹」の解説

リンパ節腫脹(症候学)

概念
 リンパ節は正常では約1 cm以下の腎臓形をした小器官であり,リンパ管の経路に沿って存在する.表在からは頸部腋窩,鼠径部などで触知しやすいが,深部のものとして深頸部,縦隔,肺門部,腹腔内,などが重要である.正常でも顎下部や頸部に直径1 cm以下でやわらかく,表面平滑で扁平なリンパ節を,また鼠径部では直径2 cm以下の同様なリンパ節を触れることがある.しかし,これ以上の大きさのリンパ節を1個以上触れる,性状がかたい,表面不整,圧痛あるいは自発痛がある,周囲組織と癒着し可動性がない,などの場合は病的と考えられる.また,画像検査により前述の深部リンパ節の腫大がみられる場合も病的であり,これらをリンパ節腫脹という.
リンパ節の構造と機能
 リンパ節(図2-17-1)にはリンパ液の循環と血液の循環がある.リンパ液は被膜を貫通する輸入リンパ管を通してリンパ節内に入り,多数のマクロファージが存在する皮質洞,髄洞を経て門部の輸出リンパ管から出てゆく.血液は門部の輸入動脈から入り,リンパ節内を灌流し,再び門部の輸出静脈から出ていく.リンパ節の実質は皮質,副皮質および髄質からなり,皮質にはBリンパ球で構成される濾胞 (lymph follicle)と濾胞の周囲を取り囲む暗殻(mantle zone)が存在する.濾胞には小リンパ球のみからなる一次濾胞と,抗原刺激を受け増殖をしている胚中心(germinal center)をもつ二次濾胞がある.胚中心で芽球化し,濾胞の外へ出た大型のBリンパ球は免疫芽球とよばれ,形質細胞へと分化して抗体を産生する.副皮質はおもにTリンパ球で構成される.髄質は髄洞,髄索などにより複雑な網目構造をしている.
 リンパ節の機能は,上述の構造からわかるように,マクロファージによる異物濾過,リンパ球の産生および抗体の産生である.
原因
 リンパ節腫脹の原因は前述のリンパ節の機能からわかるように,これらの機能が亢進した場合および腫瘍細胞の浸潤による場合がほとんどである.すなわち,感染性腫脹は細菌やウイルスなど異物の捕捉,濾過などに際しての機能の亢進である.一般的に細菌感染症では所属リンパ節の局所的腫脹であり,ウイルス感染症では多発性あるいは全身性腫脹が多い.「局所性」とは,1つの解剖学的リンパ節領域ということを意味しており,「多発性あるいは全身性」とは,複数の連続しないリンパ節領域のリンパ節腫脹を意味している.風疹や麻疹では頸部,後頭部のリンパ節腫脹をしばしば伴い,Epstein-Barrウイルスなどによる伝染性単核球症では頸部,腋窩,鼠径部など全身性にリンパ節腫脹をみることがあり,同じくリンパ系臓器である脾臓の腫脹も伴う.結核では結核菌のリンパ節への感染であり,肉芽腫を形成する.
 自己免疫疾患やアレルギー疾患などの非感染性炎症性疾患では,免疫応答に際してTリンパ球,Bリンパ球の増殖,抗体産生などの機能が亢進しリンパ節腫脹をきたす. 腫瘍性腫脹で最も重要なのは造血器腫瘍であり,その多くはリンパ系腫瘍である.これらには幼若BおよびTリンパ系腫瘍である急性リンパ性白血病,成熟Bリンパ系腫瘍である各種非Hodgkinリンパ腫,慢性リンパ性白血病およびその類縁疾患であるヘアリー細胞白血病,原発性マクログロブリン血症など,成熟Tリンパ系腫瘍である各種非Hodgkinリンパ腫,成人T細胞白血病などがあり,そのほかにHodgkinリンパ腫が含まれる.造血器腫瘍以外には各種癌のリンパ節転移がある.
 その他のリンパ節腫脹をきたす疾患としては,サルコイドーシスCastleman病を忘れてはならず,その他まれであるが脂質代謝異常などもある.これらの疾患を表2-17-1に示した.
診断
 触診によりリンパ節腫脹の有無および性状をみる.前述のとおり,顎下部や頸部に触れる直径1 cm以下でやわらかく,表面平滑で扁平なリンパ節あるいは鼠径部に触れる直径2 cm以下の同様なリンパ節以外は病的である.すなわち,これらより大きいリンパ節を1個以上触れ,性状がかたい,表面不整,圧痛あるいは自発痛がある,周囲組織と癒着し可動性がない,などの場合は病的なリンパ節腫脹と診断する.また,健診あるいはほかの疾患のための画像検査中に偶発的に深部リンパ節腫脹が診断される場合もある.
鑑別診断
 前述の表2-17-1に示したリンパ節腫脹をきたす各種疾患の鑑別には,注意深い医療面接(病歴聴取),身体診察,必要な各種検査を行う.最終的にリンパ節生検を行わなければならないこともある.
 医療面接(病歴聴取)では可能性のある感染症の症状(発熱,咽頭痛,咳,局所の化膿巣など),腫脹しているリンパ節の疼痛の有無およびその経過,リンパ節腫脹以外の症状,既往歴,家族歴,ペット飼育の有無,(海外)旅行歴,薬剤歴,職業などを詳細に聞く.
 身体診察ではまず注意深くリンパ節腫脹の触診をする.おもなポイントは,リンパ節腫脹の部位と広がり(局所性か全身性か),大きさ,圧痛の有無,表面の性状と可動性,周囲組織との関連などである.リンパ節腫脹のなかで重要な感染性腫脹と腫瘍性腫脹の鑑別点を表2-17-2に示した.リンパ節以外の身体所見では,各種感染症にみられる他覚所見の有無,発疹,外傷,化膿巣などの皮膚所見の有無,自己免疫疾患にみられる皮膚所見,関節所見の有無などに注意を払う.造血器腫瘍に関しては,肝脾腫の有無,出血症状の有無などの所見も重要である.
 検査では感染性腫脹における白血球増加あるいは減少,異型リンパ球,好酸球増加,および造血器腫瘍における血球増加あるいは減少,白血病細胞やリンパ腫細胞の有無などをみるために末梢血液検査が必要である.また,感染性腫脹の鑑別では各種培養などの細菌学的検査やウイルス抗体の検索が必要となる.自己免疫疾患の鑑別では各種自己抗体の検索を行う.胸部X線検査では結核,癌などの肺野病変,悪性リンパ腫,結核,サルコイドーシスなどの肺門リンパ節腫脹を診る.深部リンパ節腫脹の検出にはCT検査,MRI検査,ガリウムシンチグラフィ,超音波検査などが必要となる.
 リンパ節生検の施行に関しては判断が重要である.前述の注意深い医療面接(病歴聴取)と身体診察により感染性腫脹や非感染性炎症性腫脹が疑われる場合にはもちろんリンパ節生検は行わない.しかし,しばしば感染性あるいは炎症性腫脹と腫瘍性腫脹の鑑別が困難な例があり,この場合には2~3週間の慎重な経過観察を行い,軽快傾向がみられないなど悪性疾患が否定できない場合にリンパ節生検を行う.一方,造血器腫瘍が疑われる場合には迅速にリンパ節生検を行う必要がある.なお,リンパ節腫脹の診断には針生検(fine-needle aspiration)は不適である.リンパ節生検を行う場合にはヘマトキシリン・エオジン染色による病理組織検査のみでなく,免疫組織学的検査,細胞表面マーカー検査,染色体分析なども同時に行い,さらに必要に応じて遺伝子解析(免疫グロブリン遺伝子,T細胞受容体遺伝子など),ウイルス,結核菌などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査なども行う. 最も診断が困難なのは腫瘍性腫脹が疑われるが,表在リンパ節の腫脹がなく,深部リンパ節腫脹のみの場合である.この場合には経過観察も含め慎重な判断をし,必要時には開腹生検,開胸生検,胸腔鏡下生検(VATS),経気管支肺生検(TBLB)などを行う. また病状によっては,緊急性を要する場合にリンパ節生検を行う前に副腎皮質ステロイドの投与を余儀なくされる場合もある.[檀 和夫]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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