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輸血 ゆけつ blood transfusion

翻訳|blood transfusion

7件 の用語解説(輸血の意味・用語解説を検索)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

輸血
ゆけつ
blood transfusion

健康人の血液やその成分を,病人や負傷者の血管内に注入すること。大量出血や火傷,外傷のあとで血液の量をもとに戻すための治療的手段であり,貧血でヘモグロビンの値が低いときに,血液が酸素を運搬する能力を高めるため,あるいはショックに対処するためにも用いられる。

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デジタル大辞泉の解説

ゆ‐けつ【輸血】

[名](スル)血管内に、他の健康な人の血液あるいは血液成分を注入し、その不足を補うこと。外傷や手術で出血量の多い場合や、白血病貧血などの血液疾患などの際に行われる

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百科事典マイペディアの解説

輸血【ゆけつ】

健康人の血液を患者の血管内に注入する療法。広義には血漿(けっしょう)や赤血球浮遊液などの注入を含む。目的は大量出血時のショック貧血または出血性疾患,急性中毒などに対する治療,栄養の補給など。
→関連項目移植片対宿主反応病血液型自己血輸血手術成分献血注射

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栄養・生化学辞典の解説

輸血

 治療の目的で血液を血管内に直接注入すること.血液全体を注入する全血輸血と成分の一部,例えば血小板などのみを注入する成分輸血がある.

出典|朝倉書店
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世界大百科事典 第2版の解説

ゆけつ【輸血 blood transfusion】

健康な人間から採取した血液またはその成分を患者の血管の中へ注入する治療法。外傷や手術で大量の血液が失われたり,内科系の疾患で貧血が高度となった場合に,生体の正常な機能維持をするために行われる。かつては採血されたそのままの,いわゆる全血輸血が行われたが,現在では,血球や血漿などの血液成分を輸血する成分輸血が行われるようになった。また,新生児などに対し,循環血液のほぼ全量を健康な血液で置き換える交換輸血や,あらかじめ自分の血液を採取しておいて,手術などに際して用いる自己血輸血などもある。

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大辞林 第三版の解説

ゆけつ【輸血】

( 名 ) スル
健康な者から採取した血液または血漿・赤血球・血小板など各種の血液成分を患者の静脈内に注入すること。手術や外傷による失血、貧血・白血病・一酸化炭素中毒などの治療のために行われる。血液型が適合していることが必要。 「緊急に-する」

出典|三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

輸血
ゆけつ
blood transfusion

血液あるいは血液の成分を体内に注入する治療法。ヒトの血液は赤血球、白血球、血小板などの細胞成分と、アルブミン免疫グロブリン血液凝固因子などのタンパク質を含む血漿(けっしょう)成分に分かれる。これらが不足したり機能が低下したりすると、生命を脅かす種々の症状が現れる。輸血はこれらの細胞成分や血漿成分を補う治療法である。[比留間潔]

輸血の種類

一般には輸血というとヒトの赤い血液をほぼそのまま用いる全血輸血が知られているが、今日では効率のよい輸血を行うために、必要な成分だけを輸血する成分輸血が推奨されている。すなわち、赤血球が不足する場合は、全血whole blood(WB)を用いないで赤血球部分を濃縮した赤血球濃厚液red cell concentrate(RCC)が用いられ、血小板が低下した場合は血小板濃厚液platelet concentrate(PC)が用いられる。血漿中には多種類の血液凝固因子が存在し、おもに止血のために重要な働きをしているが、これらが不足した場合は血漿plasmaを用いる。血漿は凍結して保存されるため新鮮凍結血漿fresh frozen plasma(FFP)として広く治療に用いられている。全血、赤血球濃厚液、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿は現在、臨床現場でもっともよく用いられている輸血の治療材料であり、これらは輸血用血液とよばれ、保存液が添加されたヒトの生の血液あるいはその成分そのものである。
 また、血漿はさらにそのなかの各成分を化学的に精製して治療に用いられている。血漿から精製分離したアルブミンはアルブミンが不足する病態に用いられる。血液凝固第因子製剤はこれらが先天的に不足する血友病Aに対して用いられ、血液凝固第因子製剤は血友病Bに対して用いられる。このほかに、血液凝固第因子製剤、血液凝固第因子製剤、フィブリノーゲン製剤、アンチトロンビン製剤がある。免疫グロブリンは病原微生物に対する抗体の本体であるが、これらを補う免疫グロブリン製剤も血漿から精製分離され、製剤になっている。これらは、血漿成分の精製物であり血漿分画製剤とよばれる。前述の輸血用血液と血漿分画製剤をあわせ、血液製剤と総称する。
 これらの製剤は健康な供血者の血液を材料に調整され製造されるが、このように他人の血液を用いる場合を、同種血輸血allogeneic blood transfusionという。一方、自分の血液を輸血に用いる技術も確立しており、これらは自己血輸血autologous blood transfusionという。[比留間潔]

輸血の歴史

血液は古くから生命や健康に深く関わると考えられていた。そして、悪い血液を除去する治療法として瀉血(しゃけつ)療法が広まった。病人から血管を切り血液を排出させる方法である。古代エジプトではすでに紀元前2500年に瀉血がなされていたとされる。西洋医学の父ヒポクラテスも紀元前5~4世紀に疾患は体液の平衡状態の失調によるものとし、急性疾患は体液の平衡状態を保つために瀉血をすべきであると主張していた。この瀉血療法は20世紀までもっとも一般的な医療行為として行われていた。瀉血療法のほとんどが科学的に根拠のない治療法であったが、血液が生命の営みに深く関与すると広く信じられていたものと思われる。
 古代エジプト、古代ローマ時代には生命を活性化するためにヒトの血液が飲まれていた。ローマの円形闘技場コロセウムでは闘士が倒れると、ほかの闘士たちはその血を飲んだといわれる。また、15世紀、ローマ教皇インノケンティウス8世(1432―92)は瀕死(ひんし)の状態となったとき、生命が復活することを期待し3人の若者の血を飲まされたという。
 1616年、イギリスのハーベーによって血液が血管内を循環するという事実が明らかになり、出血は循環する血液量の減少により循環が維持できなくなることと理解されるようになった。この画期的な発見により、動物やヒトを対象に血管内への血液の注入という本来の輸血療法が行われるようになった。1667年フランスのドニJean Baptiste Denys(1640?―1704)によって、4人に仔羊(こひつじ)の血液が輸血され、このとき、血管痛、呼吸困難、血尿などの副作用があったという記録が残っており、これは、現在では血液型不適合輸血の典型的な症状であったと考えられている。輸血による死亡例も出たため、フランス議会は輸血の禁止を決め、教皇も輸血禁止を命じた。
 その後、輸血に関する記録は乏しくなるが、1828年イギリスのブランデルJames Blundell(1790―1878)は分娩(ぶんべん)時の出血に対し妊婦10人にヒトの輸血を行い半数が救命され、輸血療法が注目されるようになった。ただし、このときは、ABO血液型はまだ発見されておらず、当然、多くは異型輸血であったと思われる。
 ABO血液型が発見されたのは1900年、オーストリアのランドシュタイナーによってである。ランドシュタイナーは2人のヒトの血液を混ぜると凝集したりしなかったりする組合せがあることに注目し、今日のA型、B型、O型にあたる血液型を発見した。1902年には彼の弟子によってAB型も発見された。ランドシュタイナーはこの血液型発見の業績で1930年ノーベル医学生理学賞を受賞している。
 血液は放置すると凝固するため、そのままでは臨床応用しがたい。1914年から15年にかけて、ベルギーのフスチンAlbert Hustin(1882―1967)、アルゼンチンのアゴートLuis Agote(1868―1954)、アメリカのレビゾーンRichard Lewisohn(1875―1961)とワイルRichard Weilらによってクエン酸ナトリウムが血液の凝固を止める薬剤として応用できることがみいだされた。さらに、クエン酸ナトリウムにブドウ糖を加えることで血液の機能がよく保たれることが判明した。このような技術を応用し、1937年ファンタスBernard Fantus(1874―1940)がアメリカ、シカゴのクック・カウンティ・ホスピタルに世界で初めての血液銀行blood bankを設立した。
 日本の輸血は、1919年(大正8)、九州帝国大学の後藤七郎(1881―1962)および東京帝国大学の塩田広重によって初めて行われたとされる。また、日本にABO血液型検査を普及させたのは長野赤十字病院の原來復(はらきまた)(1882―1922)と考えられている。原はドイツのハイデルベルク大学留学中に血液型の研究を行い、帰国後の1916年に血液型の種類と遺伝に関する論文を医事新聞に発表している。
 当初、輸血療法は危険の伴う特別な治療法と思われていたが、1930年(昭和5)、当時の内閣総理大臣、浜口雄幸(おさち)が右翼の青年に拳銃(けんじゅう)で腹部を撃たれたときに、子息と秘書の血液550ミリリットルが輸血されて救命された。この事件の報道は、輸血が世間に広く知れわたり、有効な治療法として社会に認められるきっかけになった。また、1964年(昭和39)には駐日アメリカ大使ライシャワーがアメリカ大使館前で暴漢に右大腿(だいたい)部を刃物で刺され大量出血したが、日本人供血者の血液を輸血され救命された。しかし、ライシャワーはその後、輸血による肝炎を発症した。当時は輸血用の血液は売血によってまかなわれ、安全性確保には大きな問題があり、輸血後の肝炎は多発していたが、この事件によって輸血の安全性を求める声が強くなった。同年には売血を廃止し献血を推進する閣議決定がなされた。引き続き、「献血推進対策要綱」が厚生省(現厚生労働省)より通達され、日本赤十字社による献血が推進された。1973年以降、日本で使われる輸血用血液はすべて献血によるものとなり今日に至っている。
 輸血の安全性確保の歴史は、感染症克服の歴史であったといってよい。日本では献血者の血液検査として、1972年にB型肝炎ウイルスのためのHBs抗原検査、1986年にヒト免疫不全ウイルスのための抗HIV抗体検査、1989年(平成1)にC型肝炎ウイルスのための抗HCV抗体検査が導入された。さらに、1999年にはこれらのウイルスの核酸を増幅して検査する高感度の核酸増幅検査nucleic acid amplification test(NAT)が導入され、大幅に安全性が向上したといってよい。このほか、梅毒トリポネーマ、ヒトT細胞指向性ウイルス型、パルボウイルスB19などの検査が行われている。
 しかし、この間1980年代の血液凝固因子製剤によるHIV感染は重大な社会問題になった。日本では1994年時点で4200人の血友病患者のうち、1800人がHIVに感染していることが判明し、これは1985年から1986年までのHIVに汚染された輸入血液凝固因子製剤が原因であると考えられている。この問題を契機に血液製剤の安全性を確保する血液事業の整備、関連する法律の整備が世界各国で取り組まれた。日本では2002年「採血及び供血あつせん業取締法(血液法)」および「薬事法」が改正された。新しい血液法(改正により法律名を安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律と改称)には血液事業に関する国、地方自治体、採血業者、販売業者、医療機関の責務が明示され、血液製剤の適正使用、国内自給自足の達成、献血者の保護、売血の禁止などが掲げられている。改正薬事法では、血液製剤などヒトの血液や組織で製造した製剤を「特定生物由来製品」と定め、特段の安全性確保に関する規制がかけられた。医療機関で血液製剤を患者に使用する場合、その有効性と危険性を説明すること、さらに血液製剤を使用した場合、製品名と製造番号および患者の氏名・住所と投与日を記録し20年間保管することも義務づけられた。これは、血液製剤による副作用が発生した場合、被害を把握し被害の拡大を速やかに阻止するための対策である。[比留間潔]

輸血用血液の適応と効果

血液製剤は、献血者の善意によって得られる製剤である点、感染などの危険性が不可避的である点など、ほかの治療薬剤にはない特徴がある。そのため、とりわけ適正な使用が求められてきた。また、とくに日本では、血液凝固第因子製剤を輸入に依存した結果、多くの患者にHIV感染を引きおこした事実があり、現在では血液凝固第因子製剤は国外由来の血漿を原料としなくなった。しかし、アルブミン製剤は40%以上(2005年)をいまだに輸入に頼っている。この原因として、適応を十分に吟味した、必要最少限の使用方法が浸透していない可能性が指摘されている。このため、厚生労働省は2005年に「血液製剤の使用指針」(改訂版)を通達している。以下、この指針にしたがい、各種血液製剤の特徴と適応を説明する。
 赤血球濃厚液は献血者から採血した血液に抗凝固剤を添加し、遠心後、上清を分離し下方に沈んだ赤血球部分に保存液を加えて作成する。日本赤十字社では血液200ミリリットルから作成したものを1単位とし、400ミリリットル由来を2単位として病院に供給している。赤血球濃厚液は急性または慢性の出血に対する治療および貧血の急速な補正と、身体各組織への酸素の供給と身体を巡る血液量の維持を目的に使われる。赤血球は酸素を結合して各組織に酸素を運搬する重要な働きがあるので、赤血球が不足すると重篤な生命の危険性が生じる。赤血球中のヘモグロビンが酸素を運搬する働きをもち、ヘモグロビンは健常人の血液中には通常12~16g/dl存在する。慢性的な貧血症ではヘモグロビンが7g/dl未満になると各臓器へ酸素が行き渡らなくなり、心臓への負担が高まるため、赤血球濃厚液の適応になる。外科の手術では循環血液量の20%以上の出血があった場合、赤血球濃厚液の適応になる。体重50~60キログラム程度の成人では循環血液量が約4000ミリリットルあるので、800ミリリットル程度の出血があった場合、赤血球濃厚液の使用を考える。ただし、手術前のヘモグロビン濃度や合併症などの条件も考慮して決定する。
 血小板はおもに血液成分分離装置を用いて献血者から採取する。血小板濃厚液1単位には100億個以上の血小板が含まれ、成人には1回の輸血に10~20単位が用いられる。血小板は健常人の血液中に15~25万個/μl存在し、出血部位に付着、凝集し止血する作用がある。一般的に血小板が1~2万個/μl未満になると重篤な出血がおこる可能性があるので、血小板輸血が必要になる。おもに白血病や癌(がん)の治療で血小板が低下した場合に用いられることが多い。このほか、実際に出血がある場合や手術の場合は血小板5万個/μlを保つように血小板濃厚液を輸血する。
 新鮮凍結血漿は献血者の全血を遠心した後、上清の血漿部分を分離して6時間以内に凍結して作成する。使用するときは温水で解凍して静脈内に注入する。血液中の種々の凝固因子の不足を補うことが主たる目的である。一般的に肝障害がある場合、あるいは感染症や癌が原因で播種(はしゅ)性血管内凝固症候群を発症した場合などで血液凝固因子活性が正常の30%以下に低下したときに適応となる。このほか、循環血液量と同等の大量出血を生じたときは凝固因子が欠乏するので適応になる場合がある。
 アルブミン製剤は複数の献血者から採血した血漿をまとめて貯留し、化学的な工程を経て、96%以上に精製されたヒトアルブミンである。加熱処理や界面活性剤による処理など病原体の混入を除去する種々の技術が施されている。アルブミン製剤の使用目的は循環血液量の維持と、膠質(こうしつ)浸透圧の維持である。すなわち、出血などで血液量が不足し血圧が低いショック状態の場合や、血液中のアルブミンが低くなり、むくみや胸水、腹水がある場合などである。健康人の血液中にはアルブミンが3.5~4.5g/dl程度存在するが、2.5g/dl未満でむくみや胸水、腹水などの症状がある場合や、3.0g/dl未満で循環血液量が低下している場合に適応になる。[比留間潔]

輸血副作用

献血者から得られる血液製剤には一定の副作用の危険性が存在し、安全技術が向上しても皆無にはならない。これらの副作用はおもに感染性副作用と非感染性副作用に分類される。感染性副作用は細菌、ウイルス、原虫などの病原微生物によってもたらされる。1960年代以前は数十%の頻度で輸血後肝炎が発生していたが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVをチェックする高感度の検査が導入されてから、その頻度は著しく低下した。
 アメリカ血液銀行協会の「テクニカル・マニュアル(14版)」によると、アメリカにおける血液製剤の病原体の汚染頻度は次のとおりである。
HIV:約190万分の1
B型肝炎ウイルス:約6万分の1
C型肝炎ウイルス:約160万分の1
細菌感染:赤血球製剤で約1000分の1、血小板製剤で約2000分の1、マラリア感染は100万分の1未満
である。日本の交通事故死の頻度が年間約2万4000分の1(2008年)であることを考慮するとその確率はけっして高くないことが理解できる。しかし、さらなる安全性を追求する社会的要求は強く、また、絶えず未知の感染病原体が出現する可能性があることを考えると、感染性副作用防止技術の向上は依然として必要である。
 非感染性輸血副作用の主体をなすのは免疫性副作用である。他人の細胞や体液に対する免疫反応がおこり、種々の副作用がもたらされる。とくに血液型が異なった輸血が行われ、もし、患者にその血液型に対する抗体がある場合、悪寒戦慄(おかんせんりつ)、発熱、ショックなどの全身症状とともに輸血した赤血球が体内で破壊され溶血をおこす場合がある。これは急性溶血性反応とよばれ、ABO血液型の不適合輸血でもっとも重篤になりやすく、ときに致命的になる。
 ABO血液型はA型、B型、O型、AB型とその亜型が知られている。A型のヒトはB型抗原に対する抗体(抗B抗体)、B型のヒトはA型抗原に対する抗体(抗A抗体)、O型のヒトは抗A抗体と抗B抗体をもっており、AB型のヒトには抗A抗体も抗B抗体もない。したがって、たとえばO型の患者にA型の赤血球が輸血されると、患者のもつ抗A抗体が輸血された血液に反応し、重篤な急性溶血性反応をおこす可能性がある。このような血液型不適合輸血による急性溶血性反応がおこる頻度は1万~3万分の1程度とされる。一方、AB型のヒトにA型の赤血球が輸血されても、抗A抗体がないので、重篤な副作用は生じない。このように、血液型が異なった輸血でも場合によってその副作用の重篤さは大きく異なる。
 また、血液型はABO以外にもRh式を始め25種類以上に分類され、それぞれの分類につき数種類から数十種類の血液型が発見されている。これらの血液型に関しても異なった型の輸血がなされ、患者がそれに対する抗体があれば輸血副作用が生じる可能性がある。ただし、ABO以外の血液型に対する抗体を自然に有することはまれであり、また、あった場合でも免疫反応が強くおこらない場合が多い。
 このほかの輸血副作用の頻度は、
発熱反応:0.5~1%
アレルギー:1~3%
アナフィラキシー反応:8000~17万分の1
である。輸血関連移植片対宿主病transfusion-associated graft versus host disease(TA‐GVHD)は輸血用血液中のリンパ球が患者の体内で増殖し、臓器を傷害する重篤な輸血副作用である。日本の場合は国民が遺伝子的に均一性が高く他人のリンパ球が増殖しやすいため発症頻度が高く、約0.15%という報告もある。血液に放射線を照射するとリンパ球が死滅するため、ほぼ完全に予防できる。[比留間潔]

自己血輸血

献血者から得られる他人の血液には感染性副作用や免疫性副作用の危険性があるので、おもにこれを避ける目的で自分の血液を輸血に用いる方法が自己血輸血である。自己血輸血は、術前採取法preoperative collectionと周術期採取法perioperative collectionに分けられる。術前採取法は術前貯血式自己血輸血ともよばれ、手術の前に患者から血液を採取して手術のときまで保存する方法でもっとも盛んに行われている。成人の場合、一般的には手術の数週間前から1週間ごとに採血し、合計800~2000ミリリットル程度を冷蔵保存あるいは凍結保存する。患者は鉄剤を服用し、場合によってはエリスロポエチンという造血因子を注射して、採血によって生じた貧血を回復する。そして、手術のときに保存しておいた自分の血液を輸血する。
 周術期採取法には、手術が始まるとき手術室で輸液などを行ったあとに採血して輸血に用いる術前希釈式、出血した血液を集めて輸血に用いる術中回収式、術後に出血した血液を集めて輸血に用いる術後回収式の3種類の方法がある。[比留間潔]

今後の輸血療法

輸血療法は赤血球や血小板などの生きた細胞を患者に輸注して、その血液細胞の機能を生体内で発揮させる治療ともいえる。また、1980年代以降、ヒトの血液中には成熟した血液細胞だけではなく、血液をつくる造血幹細胞やほかの臓器を再生させる組織幹細胞が存在することが判明してきた。このようにヒトの血液にはさまざまな機能を有する細胞が存在することが明らかになり、血液を用いた輸血療法は広く「細胞治療」の概念を含むようになってきた。
 実際に血液中の造血幹細胞を集めて造血幹細胞移植に応用することができる。ヒトに顆粒(かりゅう)球コロニー刺激因子granulocyte colony stimulating factor(G‐CSF)を注射すると血液中に多くの造血幹細胞が出現するので、これを用いて移植する。これは末梢(まっしょう)血幹細胞移植とよばれ、骨髄移植にかわる治療法として注目され、おもに白血病など重篤な血液疾患に対して広く行われるようになった。別の観点からいうと白血病によりさまたげられた造血を新たに再生させる意味から、再生医療という概念も含まれている。
 また血液中には血管内皮細胞をつくる血管内皮幹細胞も存在することがわかり、血管を再生する治療法として臨床応用が試みられている。このように、輸血療法は従来のように血液細胞や血漿成分を体内に注入するだけではなく、移植療法や再生医療など広く細胞治療の概念を含むようになり、この分野の発展が期待されている。[比留間潔]
『松田薫著『「血液型と性格」の社会史』改訂第2版(1994・河出書房新社) ▽ダグラス・スター著、山下篤子訳『血液の物語』(1999・河出書房新社) ▽遠山博編著『輸血学』改訂第3版(2004・中外医学社) ▽浅井隆善・比留間潔・星順隆著『一目でわかる輸血』第2版(2005・メディカル・サイエンス・インターナショナル) ▽厚生労働省編『血液製剤の使用にあたって――輸血療法の実施に関する指針・血液製剤の使用指針』第3版(2005・じほう) ▽『血液製剤の使用にあたって』第4版(2009・じほう)』

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世界大百科事典内の輸血の言及

【血液型】より

…血液型はまた犯罪捜査などの際に個人識別に役立つが,最近ではDNA多型(DNA型)に遺伝標識としての主役の座が取って代わられるようになった。しかし,血液型抗原が輸血や妊娠や臓器移植に際して健康上不利益に振る舞うことがあるところから,臨床医学上では非常に重視されている。
【血液型の歴史】
 1901年にK.ラントシュタイナーがABO血液型を発見したことに始まる。…

【手術】より

…しかし先学の努力により現在日本の外科は世界において指導的立場をとれるほどに成長している。
【過去100年間の外科手術の進歩】
 外科手術は過去100年間で長足の進歩をとげたが,この進歩は外科医の腕が上がっただけではなく,大きな手術でも安全にできる基盤が築き上げられたこと,すなわち無菌法,抗生法,麻酔,輸血・輸液などの進歩によるところが大きい。
[無菌手術の導入]
 パスツールにより有機物の腐敗・発酵は空気中の微生物によりおこることがわかり,これを受けてJ.リスターは石炭酸消毒を,R.vonフォルクマンは昇汞消毒を提唱した。…

【血】より

…ユダヤ教のタブーの一つに,血をすべて抜きとった肉でなければ食べるのを禁じているのも,魂の座である人間の血に獣の血が混ざることを避けるためである。このような見地からは,17世紀にローワーRichard Lower(1631‐91)やドニJean‐Baptiste Denis(?‐1704)らが羊の血を用いて初めて人への輸血を試みたことなど,言語道断の瀆神行為である。試みは失敗したが,医学の発展にはしばしばこの種の悲惨な試行錯誤が伴っている。…

【保存血】より

…輸血用血液は,採取した血液に抗凝固剤であるACD液またはCPD液(いずれもクエン酸,クエン酸ナトリウム,ブドウ糖からなり,後者にはリン酸水素ナトリウムNaH2PO4が加わる)を加え,主として赤血球の代謝を抑えるために4~6℃で保存されるが,保存血には全血と濃厚赤血球が含まれるが,現在濃厚赤血球は全血よりバフィコート(白血球と血小板を含む成分),血漿のほとんどを除き,新しい保存液MAP液(マニトール,アデニン,フォスフェート)を加えた赤血球MAPを指す。したがって採血後21日目までのこれらの輸血用血液の名称である。…

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