改訂新版 世界大百科事典 「ウーリ」の意味・わかりやすい解説
ウーリ[州]
Uri
スイス連邦を構成する4番目のカントン(州)。地理的・歴史的にスイスの中核に位置する。面積1076km2,人口3万4948(2006)。州都アルトドルフAltdorf。アルプス中央のザンクト・ゴットハルトSankt Gotthardt(サン・ゴタールSaint Gothard)峠の北側登口にあって,南ドイツと北イタリアを結ぶ交通の要路上にある。ウーリの歴史はこのアルプス越えの重要峠と不可分の関係をもつ。峠が1200年ころに開削される以前には,チューリヒの女子修道院(853年ルートウィヒ・ドイツ人王による建立)の所領であったが,領主が遠方にいて女子修道院長であったため,比較的に自由な立場を享受していた。峠が開通すると,神聖ローマ皇帝はイタリア政策を遂行する上に要路となるこの地域を帝国の直轄地とした。ウーリの住民は皇帝から自由特許状を獲得し,自由と自治を享受した。しかし,同様に峠へのルートに重大な関心を示したハプスブルク家に自由と自治を侵害されそうになって,隣接のシュウィーツ,ウンターワルデンと1291年に〈永久同盟〉を結び,抵抗した。次いで1315年のモルガルテンの戦に勝利して,スイス連邦形成の核となった。16世紀の宗教改革にはカトリックにとどまり,政治的にも連邦形成の核を誇って保守的姿勢を保った。鉄道の時代に入り,1882年のザンクト・ゴットハルト・トンネルの開通は住民の移動をひきおこし,ウーリに変化をもたらした。1231年までその起源をさかのぼれるランツゲマインデ(直接民主政住民集会)も1928年に廃止された。しかし,古くからの住民は二つのアルプ(アルプス高原牧場)共同体に所属し,その運営は現在でもランツゲマインデの形式を保っている。ウーリの土地の8割強はこれらの共同体に属しており,共同体の発言力は大きい。現在では人口のおよそ20%が農業に従事しているだけで,ザンクト・ゴットハルト峠に鉄道が開通してから発展してきた工業も盛んになっている。特に,《ウィルヘルム・テル》の物語に縁のあるアルトドルフ周辺には大企業が多数進出している。
執筆者:森田 安一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報