日本大百科全書(ニッポニカ) 「エクエンシー」の意味・わかりやすい解説
エクエンシー
えくえんしー
Cyprian Ekwensi
(1921―2007)
ナイジェリア文学界の始祖的存在。ナイジェリア北部、イボ・ランド出身。イバダン大学卒業後、ロンドン大学で薬学を修める一方、BBCで放送技術を修得した。帰国後、林務官、医務官、教師を務め、1957年以降は、ナイジェリア国営放送協会を振り出しに、放送情報関係の仕事に従事。ナイジェリア市民戦争(ナイジェリア戦争)後は、地方で各種会社を経営し、実業家として活躍した。作家としては第二次世界大戦直後に、民衆の娯楽と啓発を目的に刊行された「オニッチャー・マーケット文学シリーズ」に収められた『愛がささやく時』『レスラー・イコロとイボの民話集』(ともに1947)が好評で、一躍脚光を浴びた。ハガード、ディケンズ、ベイツらの影響を受け、首都ラゴス(当時)の退廃と倦怠(けんたい)、都市と庶民の生活を描く筆致、その社会風刺に非凡の冴(さ)えをみせる小説『都市の人々』(1954)、エミール・ゾラにあやかった娼婦物語で代表作『ジャグア・ナナ』(1961)とその続編『ジャグア・ナナの娘』(1986)、パン・アフリカニズム(汎アフリカ主義)をうたい込んだ『美しい羽根』(1963)で、大衆作家、都市作家の地位を確立した。さらにナイジェリア市民戦争の悲惨さとむなしさを主題にした『戦争を生き抜いて』(1976)と『引き裂かれて』(1980)で、従来のエンターテインメント(娯楽)作家としてのイメージから脱皮した。ほかに『燃える草』(1962)、『イスカ』(1966)、政治的寓話(ぐうわ)小説『王よ、永遠に』(1992)、児童向け読み物など多作。
[土屋 哲]