改訂新版 世界大百科事典 「エリーザベトフォンR」の意味・わかりやすい解説
エリーザベト・フォン・R (エリーザベトフォンアール)
Elisabeth von R.
S.フロイトによって《ヒステリー研究》(1895)中で報告された症例の一つで,24歳になるハンガリーの地主の娘。主訴は両下肢の疼痛と歩行障害。フロイトによる分析の過程で,発病が姉やその夫らと避暑に行った際に起こったこと,姉が死んだ時に〈これで義兄さんの妻になれる〉と思った後に憎悪していること,などが意識化されて,病状は回復した。フロイトは,道徳心から義兄への愛情が抑圧され,意識から切り離されて身体症状に転換されて発病した,と考えた。このような防衛ヒステリーの考えを実証し,また治療に対する抵抗(沈黙など)の意味に着目させた症例として重要である。さらにまた,〈頭に浮かんだままに話させる〉自由連想法を発見する契機となった症例としても忘れえない。この自由連想法こそ,無意識の世界の探求を可能にしたものであり,患者が自分の理性によって無意識を洞察するこの方法によって,はじめて精神分析が誕生したといえる。
執筆者:馬場 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報