改訂新版 世界大百科事典 「自由連想法」の意味・わかりやすい解説
自由連想法 (じゆうれんそうほう)
free association
神経症に対する精神分析療法の基本技法。S.フロイトの創案になるもので,1890年代に漸進的に確立されていった。患者をソファに横臥させ,分析者はその背後に座る。分析者は患者を見ることができるが,患者は分析者を見ることができない。このように治療状況を設定した上で,治療者は患者の心の中に浮かんだいっさいのことを言語化することを要求する。つまり,関係がない,重要でない,無意味だ,話すことは不愉快だといった取捨選択を患者にまったく停止してもらい,頭の中に浮かんだことをまとめようとはせず,そのままに自由に連想してもらうのである。一回一時間,日曜日を除く毎日実施するのが原則である。この患者の自由な連想に対して,分析者は〈平等に漂う注意〉をもって聴従することが必要となる。この方法が,自由連想に対するさまざまな抵抗の指摘ならびに転移の操作を介して患者の無意識裡の葛藤を意識させ,これを自我の中に組み入れることによって,患者の自我を強化し,神経症を治癒させるのに有効な手段であることをフロイトは見いだした。彼はこの方法を夢の解釈にも適用したし,自己分析にも応用した。精神分析家の養成を目的とする教育分析においても用いられるのは自由連想法である。こんにち広く行われている精神分析的精神療法psychoanalytic psychotherapyにおいては,ソファを用いない対面面接を行っているが,患者に自在に語らせるという自由連想法の基本方針はそのまま踏襲されている。なおフロイトの自由連想法は,シュルレアリスムにおける自動記述の方法に多大の影響を与えたともいわれる。
執筆者:下坂 幸三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報