日本大百科全書(ニッポニカ) 「エーブラハムズ」の意味・わかりやすい解説
エーブラハムズ
えーぶらはむず
Peter Abrahams
(1919―2017)
南アフリカ共和国の非白人系作家の始祖的存在。1957年ジャマイカに帰化。父はエチオピア人、母はケープ・カラード。ヨハネスバーグのスラム街に生まれ、苦学して大学までいったが、南アフリカでは創作活動と生活とが両立しないのを悟り、1939年脱出を決意。自伝『自由を語れ』(1954)はそれまでの差別体験の記録である。汽船の火夫として2年間働き、1941年にイギリスに渡り、ロンドンで共産党の機関紙『デイリー・ワーカー』Daily Workerの編集に従事しながら創作活動に入った。1957年以来ジャマイカに定住し、ジャーナリストとして活躍。若いころはマルキシズム(マルクス主義)とパン・アフリカニズム(汎アフリカ主義)の強い感化を受けた。短編集『黒い聖書』(1942)、『都市の歌』(1945)、人種差別の実態を描いた『坑夫』(1946)、『雷の道』(1948)、歴史小説『野蛮な征服』(1950)、パン・アフリカニズム運動の中心人物でガーナ初代大統領ンクルマ(エンクルマ)をモデルにしながら、アフリカの国々の独立後の政治腐敗などの問題を浮き彫りにした代表作『ウドモに捧(ささ)げる花輪』(1956)、『みずからの夜』(1965)、新興独立国(ジャマイカ)の政治抗争をテーマとした『この島で今』(1966)などの小説のほか、ルポルタージュに『ゴリへの回帰』(1953)がある。その後長い沈黙を経て、1985年にアフリカ人奴隷とその子孫たちの解放運動をテーマとした歴史小説『コヤバからの展望』を出版した。
[土屋 哲]