改訂新版 世界大百科事典 「おまん源五兵衛物」の意味・わかりやすい解説
おまん源五兵衛物 (おまんげんごべえもの)
近世歌謡,人形浄瑠璃,歌舞伎狂言の一系統。近世初期,薩摩の侍源五兵衛とおまんの情話を歌う歌謡が,〈高い山から谷底見ればおまん可愛や布さらす〉を原歌とする源五兵衛節として流行し,それによって井原西鶴は浮世草子《好色五人女》巻五に〈恋の山源五兵衛物語〉を書き,近松門左衛門は浄瑠璃《薩摩歌》を作ったので,これをうけて源五兵衛・三五兵衛・おまんが主人公となる戯曲が生まれた。吉田冠子らの合作浄瑠璃《薩摩歌妓鑑(さつまうたげいこかがみ)》(1757)は《薩摩歌》を利用したお家騒動物。初世並木五瓶の歌舞伎狂言《五人切五十年廻(ごにんぎりごじゆうねんかい)》(1792)は,曾根崎新地五人斬り事件を扱った作として初めて主人公を源五兵衛・三五兵衛とするが,これは犯人が薩摩侍だったことによる。五瓶は同じ五人斬りの狂言《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》でこの命名を踏襲し,これの江戸上演の際には女主人公菊野を小万と改めた。《薩摩歌》では三五兵衛の言号(いいなずけ)の名であるが,音韻上おまんをも連想させる名である。本作は五人斬りの狂言の決定版となり,以後この系統の作は〈五大力物〉と呼ぶべきものとなる。そのうち五瓶作《略三五大切(かきなおしてさんごたいせつ)》(1806),4世鶴屋南北作《盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)》が名高い。化政期以後小説にも〈五大力物〉が現れた。新歌舞伎では大正期に岡鬼太郎作《今様薩摩歌》がある。
執筆者:松崎 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報