改訂新版 世界大百科事典 「いいなずけ」の意味・わかりやすい解説
いいなずけ
I promessi sposi
イタリアの作家A.マンゾーニが1827年に著した歴史小説。《婚約者》の訳名でも知られる。1620年代の末,スペインの支配下にあった北イタリアのコモ湖の近くの村が舞台で,いいなずけの青年レンツォと娘ルチアとが結婚しようとした。ところが横暴な領主ドン・ロドリゴがルチアに目をかけ,臆病な司祭ドン・アボンディオを脅迫し,式を挙げさせない。ルチアの母は弁護士に訴えて解決しようとするが,弁護士もロドリゴの名を聞いて冷たくなる。修道士クリストフォロに頼んでロドリゴに談判してもらうが,これもうまく事が運ばない。若い2人はクリストフォロのはからいで夜逃げし,ルチアはモンツァの修道院に手伝いとして住みこむ。レンツォはミラノへ向かい,パン騒動にまきこまれ,司直の手に追われてベルガモ方面へ逃走する。修道院長は暗い過去を持っている。それを種に脅かされた院長は,ルチアをドン・ロドリゴの手先インノミナートに渡してしまう。しかしその夜インノミナートに回心が起こり,レンツォとルチアはめでたく結ばれる。その途中にはミラノのペストの描写もあり,飢饉による荒廃のさまも語られる。
この作品にはさまざまな社会階級の人物が登場し,それぞれ内在的論理に従って行動していながら,完成度の高いカトリック文学としてまとめられている。滑稽も崇高も,風景も自然も,個人も群衆も,ともにみごとに描かれ,それを通じて信仰に厚いイタリアの国民性が浮彫にされている。19世紀初頭の北イタリアはオーストリアの支配下にあった。著者はその現状を2世紀前のスペイン統治下に移すことによって,国民統一の精神的基盤ともいうべき大傑作を生み出したのだといってよい。
執筆者:平川 祐弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報